第11話 その頃リリスは、セレスト皇国王宮
私がもっときちんとセイヤ様をお止めしていれば、こんなことにはならなかったはずです。
悔やんでも、悔やんでも、悔やみきれません!
「リリス様、心配なのはわかりますが、少しはお食べにならないと」
侍女のアリアが心配して声をかけてきますが、とてもではありませんが食べ物が喉を通りません。
「食べたくありません……」
「でしたら、せめてスープだけでもお口にしてくださいませ」
アリアに懇願され、私はスプーンを取り、スープを掬って口へ持っていきます。
スープを口にした途端、涙が零れます。
セイヤ様はあれから何か食べられているでしょうか? もしかしたら、食べ物も水も手に入らず、空腹に苦しんでいないだろうか?
「リリス様……」
そんな私を見てアリアも辛そうです。ごめんなさいアリア。でも、涙が抑えきれないの……。
「リリス嬢、そんなに心配せんでもじきに発見の報も届くだろう。もしかすると、着いた先で豪華な名物料理でも食べているかもしれんぞ」
国王陛下も心配してくれますが、陛下の食事も進んでいません。
「そうよ、あの子はあれで、結構ちゃっかりしているのだから」
王妃様も疲れた様子ですが、明るく話してくださいます。
「そうだな。引き篭って、ろくに勉強していないくせに頭は良くて、何でも卒なくこなす子だ。だからきっと大丈夫だ」
陛下は自分に言い聞かせるように、私を励ましてくださいます。
「そうですね。セイヤ様なら大丈夫ですよね」
私は涙を拭いながら、もう一口スープを口にします。
「なあに、第二王子のダレスが捜索に向かっているし、第一王子のアベルも各国に情報を求めている。すぐに連絡が入るだろう」
セイヤ様が謎の球体に乗って、飛び立った後、王宮は騒然となりましたが、すぐに捜索隊が組織され、飛び立った方角に出発しました。
合わせて、各地に問い合わせをおこない、今は何らかの情報がもたらされるのを待っている状態です。
「それにしても、あの球体は何だったのでしょうか?」
私は少しでも助けになればと陛下に聞いてみます。
「うむ……」
陛下は言いづらそうに考え込んでいましたが、やがてとんでもないことを話し出しました。
「実はあれは、神々がこの地上に舞い降りたときに使った魔道具だと伝えられている」
「あの球体に神様が乗って、天界から降りてきたということですか?」
「そうだ。だが、神話の話に過ぎないと思っていたのだがな」
「それでは、セイヤ様は天界に行かれてしまったのですか?」
あまりのことに私は一瞬気が遠くなります。
慌ててアリアが私を支えてくれました。
「まだ、天界まで行ってしまったとは限らない。それに、行ったとしても帰ってくるかもしれない」
これは、陛下は天界に行ってしまった可能性が高いと考えているのですね。
どうしましょう。だとしたら私にできることはただ祈るだけなのでしょうか。
目を瞑ると、離れ離れになる直前の様子が思い出されます。
「ん? このスイッチみたいなのは何だ」
「大丈夫、大丈夫」
「定員三名だな」
「これは飛行艇か?」
「さて、メインスイッチはどれかな?」
セイヤ様の声が耳を離れません。
あれ?
私は小さな違和感を覚えました。
セイヤ様の声をもう一度よく思い出して、考えます。
「定員三名だな」
定員三名。それはおかしいです。
舞い降りた神様は十二柱だったはずです。
もし、あの球体で神様が降りてこられたなら、同じ物があと三つ必要です!
同じ物があるのだとしたら、私もセイヤ様の後を追って行けるかもしれません。
「陛下、あの謎の球体と同じ物は他にありませんか?」
「他にか。少なくとも我が王宮にはあれ一つだけだったが」
「セイヤ様は飛び立たれる前に、定員が三名だと言っていました。もし、あれで神様方が降りてこられたなら、同じ物が四つないと数が合いません!」
「降りてきた神は十二柱だったからな。確かにあと三つあってもおかしくないな」
陛下はすぐに人を呼び指示を出します。
「同じような謎の球体がないか、全ての公国と大公領に問い合わせろ。それと教会もだ」
「私も領地に帰って確かめてきます!」
「うむ、よろしく頼む」
「もし見つけても、リリスだけで行っては駄目よ」
「それは……」
王妃様にはお見通しだったようです。釘を刺されてしまいました。
「私が、リリス様を行かせはしません!」
「アリア、任せたわよ」
「はい、お任せください」
アリア、あなた私の侍女でしょ。何で王妃様の指示に従っているのですか。
そう言いたいところですが、それよりも早く領地に帰りましょう。
「アリア、行くわよ! それでは国王陛下、王妃様、失礼させていただきます」
「気をつけてな」
「気をつけてね」
陛下と王妃様に見送られ、私は謎の球体を探しに急ぎ領地に戻るのでした。
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