第9話 船内見学

 バニラとフライドポテトとハンバーガーのシェイクでお腹が膨れたので、俺はハルク千型プロトタイプデルタの船内を見て回ることにした。


 船内案内板によると、まずここは、全部で十層に分かれている船内の第六層である。


 中央に円形のブリッジがあり、その周りを廊下が巡っている。


 ブリッジには入り口が前後左右四ヶ所にあり、後方の入り口から出た先が、船長室をはじめとする、船長が利用する区画となる。


 ブリッジの左側には、船長を補佐するための上級船員(副船長又は航海長)用の部屋がある。

 部屋の作りは、昨日寝た船長用の個室と変わりがない。


 ブリッジ正面には、廊下の先に会議室や、医務室、一般船員が利用するエレベーターがある。


 そして、ブリッジの右側が貴賓室である。

 何故か船長室より豪華で、まるで最高級スイートルームのようだ。

 はっきり言って、セレストの王宮より金がかかっていそうだ。

 メインルームの他にいくつかのサブルームが付属していて、使用人の部屋も用意されている。


 明らかに、王族などの身分が高い人のための部屋である。

 まあ、俺も王族なのであるが、俺には質素な船長室の方が向いている。


 ブリッジ右側の入り口を出て、左手に回り込み、前方にあるエレベーターを使って一つ上の層に行く。

 第六層の上の第七層は一般船員のための区画になっていた。

 個室は全部で八部屋、こちらも船長用の個室と然程変わりがない。

 中央には食堂と遊戯室があり、個室とトレーニング室がそれを取り囲む感じに配置されている。


 つまり、食堂と遊戯室が第六層のブリッジの位置に当たる。


 時間があるので全層を隈なく見て回ったが、船員が普段使う生活区画はこの二つの層だけで、そのほかの層は、倉庫か機関部か攻撃防御システムであった。


 各層の簡単な概要は次の通りだ。


 10層、上部格納庫、シャトルポッド4機

 9層、貨物室、ビーム砲

 8層、副エンジン、魔導ジェネレーター

 7層、一般船員用個室8室、食堂、遊戯室、トレーニング室

 6層、ブリッジ、船長室、貴賓室、使用人室、会議室、上級船員室、医務室

 5層、魔導核

 4層、主エンジン、魔導ジェネレーター

 3層、シールド発生装置

 2層、倉庫、工作室、弾薬庫、魚雷発射管

 1層、下部格納庫、無人機10機


 見学を終えてみて俺は考えた。

 この宇宙船は、何のための船なのだろう?


 個室は、船長用、貴賓用、使用人用、上級船員用、一般船員用八室の全部で十二室だ。

 つまり、この宇宙船の定員は十二人となる。


 宇宙船の大きさから、かなりの人数の船員が必要になると無意識に考え、定員の大半が船員だと思っていたが、よく考えたら、自動運転のため船員なんて一人いれば十分である。

 実際に、今は俺だけしか乗っていなくても何の問題もなく動いている。


 だとしたら、一般船員用と思っていた部屋が実は客室なのかもしれない。

 そうなると、この船は客船だろうか。


 使用人が乗員なのか乗客なのか微妙だが、乗員であるなら、船長、上級船員、使用人の三人が乗員で、残りの九人が乗客となる。

 使用人が乗員でないならば、乗客数が十人だ。


 ただ、そうすると、ブリッジに座席が十二人分あるのは何故だろう?

 緊急時には乗客もブリッジに座ることになるのだろうか。


 緊急時といえば、この船は魚雷やビーム砲といった武器も搭載している。

 この武器が兵器と言えるものなのか判断ができないが、戦闘艦であった可能性も捨てきれない。


 そうだとすると、シャトルポッドは戦闘機で、船員八人はパイロットかもしれない。

 宇宙空間で、シャトルポッド同士の空中戦が繰り広げられるのだろうか。

 あれ? シャトルポッドに武器は付いていたかな。後で確認してみよう。ロボットに変形したりしないだろうか。

 俺の妄想は止まるところを知らない。


 まあ、戦闘艦であったにしろ、なかったにしろ、魚雷やビーム砲といった武器が必要なほど宇宙空間は物騒だということだ。


 気をつけるのに越したことはないが、その辺もすべて船に任せるしかない。


 ここでも、俺にできることは何もない。

 転生しても、宇宙空間に出てもその程度の人間だ。


 不意に、自分が無能で要らない人間なのではないかという疑念が湧いてくる。


 まずいな。引き篭りのプロだと思っていたが、たった一日一人きりになっただけで、考えが後ろ向きに、鬱状態になりかけている。

 リリスがいれば、無条件に褒めてもらえるので、気分を変えられるのだが、今は側にいない。

 自分で自分を褒めて、気持ちを上げていくしかない。


 そういえば、魔力の充填をしなければならなかったな。

 この船のものは全て魔力で動いている。

 その魔力を供給できる俺は十分に役に立っているだろう。

 俺って凄い!

 少しでも前向きに考えるように努める。


 ビーム砲のエネルギー源も魔力らしいから、今のギリギリの充填率はよろしくないだろう。


 俺は早速ブリッジに行って、魔力の充填をすることにした。

 何かをやっていれば気が晴れる。


 何もやらないでいると気が滅入る一方だ。


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