第4話 発進

 謎の球体は乗り物だった。

 俺はリリスが止めるのも聞かずに乗り込むと、適当にスイッチを押した。


 ウィーン。プシュー!


 どうやら正解を押したようだ。


「殿下!」

「セイヤ様!」

 扉が突然閉まり、外にいた兵士とリリスがあわてて俺を呼ぶ。


 機内に照明が入り、前後左右だけでなく上下にもある全周モニターに外の様子が映し出された。

「おー。これは凄い!」


 モニターには兵士が、機体を叩いている様子が映しだされている。


「セイヤ様! セイヤ様!!」

 リリスは必死になって、アリアを振り切ってこちらに来ようとしているが、アリアがそれを許さない。


『前回の使用から一定期間が経過しています。使用するにはキャプテンの再登録が必要です。再登録しますか?』


 突然、機械的な音声により案内が始まって、船長の登録をするか聞いてきた。


「この場合どうすればいいのかな?」

『登録する場合はハイと、登録しない場合はイイエとお答え下さい』


 俺の独り言を拾ってヘルプ機能が働いたようだ。

 音声入力なのか。なら。


「ハイ」

『再登録を開始します。――。生体情報確認。前キャプテンの血族と判明。キャプテンとして再登録しますか』


「ハイ」

『再登録中――。再登録完了。――。定期メンテナンス期間が過ぎています。緊急シーケンス発動。自動航行により指定されたドックに向かいます」


「え?! ちょっと待って! ノー。ストップ。イイエ。キャンセル、中止!」

 俺は焦って考えうるあらゆるパターンで中止の命令を出す。

 しかし、その命令は受けつけられなかったようだ。


『緊急シーケンスはキャンセルできませんでした。発進します。ご注意下さい。座席に座り、シートベルトをお締め下さい。カウントダウン開始、五、四、三、二、一、ゼロ。発進!』


 カウントダウンが終了すると、謎の球体は俺を乗せて飛び立った。

 下を見ると、驚いてこちらを見上げているリリスたちの姿がどんどんと小さくなっていく。

 どうやら、発進の巻き添えで怪我などしていないようだ。

 そんなことを考えているうちに、姿を確認できなくなるほど高く昇っていた。


「つまり、これは飛行艇だったということか」

 空を飛べる魔道具が存在したなんて驚きだが、こうなってしまったら諦めるしかない。自動航行だと言っていたし、ドックに着けば止まるだろう。

 しかし、ドックなんて、どこにあるのだろう。


 魔道具の研究が盛んなパラスク公国か、それとも、遺跡が多いベスタニ大公領あたりだろうか。


「しかし、この浮遊感は落ち着かないな」

 直径二メートルのこの飛行艇には窓が無いので、本当なら閉じ込められた圧迫感が凄いはずなのだが、壁、床、天上、その全面がモニターになっていて外の様子が映し出されているため、圧迫感はまるでなくむしろ開放的だ。

 逆に、足元にまで外の様子が映し出されているから、まるで座席に座ったまま宙に投げ出されているようで怖いくらいである。

 引き篭りの俺としては、小さな窓が一つあるくらいがちょうどよいのだが。


 そんなことを考えているうちに、飛行艇はどんどん高度を上げ、下を見れば国全体が見られるようになってきた。

 そして、青空だった空は、暗くなり、星が瞬き始めた。


「おい! どこまで上がるんだ、これ?」

『衛星軌道上の母船までになります』

 俺の大きな独り言を拾ってヘルプ機能が働いたようだ。機械音声がとんでもない答えを寄越してきた。


「衛星軌道上って、宇宙船かよ! て、これ飛行艇でなくてシャトルか、形からしてポッドかな」

『シャトルポッドです』

「両方かよ!」

 俺は思わず機械音声に突っ込みを入れてしまった。


 その間もシャトルポッドはどんどん高度を上げていく。

 もう、周りは完全に宇宙空間だ。


「はぁー」

 思わずため息が出る。


 どうやら俺が転生したのは、剣と魔法のファンタジー世界でなく、スターシップが飛び交うスペースオペラの世界だったようだ。


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