第5話

「チクショウ、軽戦車の砲じゃ歯が立たねぇ!舞山さん!増援はまだですか!?このままじゃジリ貧だ!」


「わかってる!だがもう少しで駆逐戦車の射程圏内に入るんだ!後数分耐えて誘引してくれ!安心しろ!俺名義で黄金突撃桔梗勲章の申請をしといてやる!この戦いが終わったらお前ら全員英雄だぞ!」


「その言葉、忘れませんからね!全隊!ここが正念場だ!走れェェェェェェェェェェェェェ!」


「「「「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」


ノイズ混じりの通信機に向けて怒鳴りつける舞山の顔には底なしの焦りが張り付いていた。


駆逐戦車を向かわせるとは言ったが、舞山自身そのようなもので撃退できるとは思っていない。実際に以前アルプスで古代種が出たときには、対戦車兵器所持のエリート集団も含む数千人規模の大舞台で迎え撃ったにもかかわらず、数百人が大怪我を負いやっとのことでと言う壮絶な事実が残っている。


いかにして奴を追い払おうかと頭を抱えたそのとき、ティーガーに乗り合わせた砲手の独り言が舞山の記憶を揺さぶった。


「クッソ、あんなん巡洋艦クラスの口径砲の火力でもなきゃ追い返せやしないぞ…どうすんだ?」


(ん?…巡洋艦…何かが引っかかる…そうか!)


「それだぁぁぁぁぁ!」


「うわっ、なんですか急に!って、師団長!痛い痛い!耳引っ張らないで!車外に出ちゃ危ないですよ!」


砲手の悲鳴も意に介さず、舞山が新たに取り出したのはアメリカ製のM20装輪装甲車。


「おい、砲手の少年、名前は?」


「大谷正隆ですが…」


「よろしい。すまないがグー○ルマップで1番近い漁港を調べてくれないか?」


「えーと…(検索中)今すぐ行けるようなところはないですね。しかし、近くに川があるので快速のモーターボートくらいならあるかと」


「なるほどなるほど…よし、決定だ。近くの川まで行くぞ。俺はコイツを運転する。お前は…」


と、言いながら舞山が大谷に手渡したのは艦船の模型の入った革袋と一枚の紙。


「この中からどんな手を使ってもいい。このリストにある艦隊を探し出してくれ。」


リストに入っていたのはいずれも大戦末期の各国の大型戦艦や空母、そして島風、タシュケントやル・ファンタスクなどの快速駆逐艦と、北上と大井の重雷装巡洋艦だった。


「師団長、あんたまさか…!」


驚愕と希望の混ざり合った目で舞山を見る大谷に、


「ボサっとしてないでとっとと探せ。M20の足は速いぜ?」


と、舞山は不敵に笑ってみせた。






20分ほどのドライブ(装甲車)の後、舞山達はモーターボートの舵を握るおっちゃんの後ろで船上の人となっていた。


「よう、舞山。いきなりなんだい、唐突に『海まで乗せてってくれ!』なんて言い出しちまって」


「いやぁ、すまんすまん。モーターボートを探してたらたまたま林のおっちゃんが見えたもんでなぁ」


古い友達のような2人に全くついていけず革袋を握って呆然としていた大谷に気づいた林が、


「おお、あんたのこと忘れてたわい。大谷…だっけ?俺は林臨平、この辺で船頭をやってるもんだ。舞山とは訳あってこーんなちんまいくらいの頃から面倒を見てるんだ。よろしくな」


と、思い出したかのように自己紹介をした。


「んで、舞山の。今日はなんだってそんなに急いでるんだい?まさかとは思うが…この坊主の持ってるボロい革袋ってんじゃないだろうね」


「そのまさかだよ。バケツあるかい?」


「ここにありましたよ。水も汲んでおきました」


「おお、助かるな、大谷。そんじゃ、よく見てろよ〜?」


ポチャンと言う小さな音とともにバケツの中に落とされた模型は、2人の面前で見る見る大きくなり、最終的にバケツの縁ギリギリまで大きくなった。


「こりゃたまげたなぁ…大谷のあんちゃん、アンタはこれを知ってたのか?」


「なんとなく予想は付いてましたけど、実際に見るとビックリですね…こうやってデカくなるんだ」


二人が驚いているのを横目に見ながら、舞山は船の舵を握り、はしけ舟を避け漁船をかわし、波止場や洗濯物をかすりながら全速力で進んでいる。


「お二人とも、楽しんでいるところ申し訳ないが、そろそろ海に着くぞ。大谷!

10キロくらい沖合に出たら…そうだな…ル・ファンタスクか島風あたりを出してくれ!」

「わかりました!でも操舵とかはどうするんですか?機関要員や操舵手、航海士が居ないと船は動きませんよ?」


「それに、出したての状態じゃ燃料や弾薬も入ってないぞ?攻撃はどうする気だね?」


「まぁ、燃料や弾薬については、この模型ははいま大谷が持ってるブローニングM2重機関銃や、林のおっちゃんのG41と似たようなもんだから心配ないだろうし、操舵に関しては…まぁ何とかなるだろ(っていうか、今更気づいたが大谷のやつ体格のわりにごつい銃担いでるな…重くないのか?)」


「それもそうですね。あとコイツは見た目の割に結構軽いんであんまし重荷にはなってませんよ?予備弾薬とかも持ち運ぶ必要ないですしね」


そうこうしているうちにかれらを乗せた船は沖合10kmほどのところにたどり着いた。


「おーい、舞山。そろそろ10kmだぞ~。どうするんだ?」


「りょうか~い。さて大谷、貴官には世界で最初に艦艇を出現させる名誉をやろう!」


「…!了解であります!准将殿!」


「3…2…1…投げろぉぉぉぉぉ!」


「そ~いやっさぁぁぁ!」


おどけた顔で敬礼をして見せた大谷は。舞山の掛け声に合わせて模型を思いっきり投げた。


見た目のわりにそれなりの重さがある(大体鉄球投げのボールより少し重い程度:大谷談)はきれいな放物線を描いて宙を舞い…数秒ほど浮かんだ後に眩い光を発し始めた。


「「「おいおいおいおいやばくないか?」」」


近くで見ている三人の予想は見事的中。光はどんどん強くなり、三人は一時的に意識を失った。




~数十秒後~


「ぬぅ…ここはどこ?わたしは誰…」


「おい大谷、しっかりしろ。ここはさっきと変わらない。洋上だ。」


「あぁそうでした…林さんは大丈夫でしたか?あれ?はや…し…さ…ん……」


「「「...........................」」」


急にボートに降ってきた陰に疑問を抱き頭上を見れば、そこにあるのだ見覚えのある艦橋。


フランス海軍の当時世界最速クラスの速度を誇った駆逐艦「ル・ファンタスク」がその船体を大海原に悠々と浮かべていた。







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