第4話

「対空部隊!ワイバーンの羽に穴をぶち開ける用意はできたか!?重戦車中隊はガンガン前線に出ろ!主力中戦車と駆逐戦車スナイパーの盾となれ!そこ!砲弾の種類を間違えるな!榴弾なんかぶっ放した日にはこの辺粉みじんだぞ!基本は徹甲弾、やばい時のみ榴弾の使用を許可する!」


 舞山の切った担架から数分後、アーケードでは背景に似つかわしくない物騒な言葉が飛び交い、臨時機甲師団が急ピッチで編成されつつあった。通りすがりの人々を集めた混成師団だが、虚栄心やウォーモンガー、はたまた一発逆転の荒稼ぎなどそれぞれ目的は違えど、部隊の士気はすこぶる高い。


 まだ数分だというのにすっかり副官ポジが板についた鷲崎が飛ばす指示(と発破)をBGMに、舞山は戦略を練っていた。


(小火器の世界の大口径砲とはいえ、無策に突っ込めばボッコボコにされるのは目に見えているな…)


 手元にあるどこからともなく出てきた稼働中の戦車のリストを見ながら舞山は考える。


(ティーガーは司令車両として動くから前線に出れないのがつらいな…KV-2を計算に入れても前線を支える壁訳が薄い…よし、ここはあいつらを出そう。)


 ひらりと車外に飛び降りた舞山は2両の戦車を新たに取り出し地面に放り投げる。現れたのは紅茶やr…もといイギリスの重装甲戦車部門代表チャーチル歩兵戦車と元祖超鈍足戦車マチルダ。そばにいた臨時部隊員8人ほどの首根っこをひっつかんでこれに乗れと命令を出した。


「重装甲なんだからめったなことじゃ何も起きんだろ。ダイジョブダイジョブ」


 と、フラグにしかなっていない発言ののちに、舞山率いる機甲師団総勢戦車25両は敵に向かって出陣した。


 まず最初に火を噴いたのは重戦車+αの前衛集団。KV-2の圧倒的な火力と紅茶兄弟イギリス戦車の装甲のコンビネーションが功を奏し、敵の放つ攻撃を見事に受け止めている。まさに理想的な前衛だ。


「次!中戦車軍集団!突入!」


 間髪を入れずIS-2やT33、IV号戦車などの多国籍中戦車で構成される主力部隊が両脇から突っ込んだ。大口径の火砲の前には竜の鱗であろうと数発で貫かれる。


「仕上げは頼んだぞ!駆逐戦車スナイパーども!」


 最後に近くの古墳の上に陣取っていた駆逐戦車隊が大型龍にトドメを刺す。SU-152やヤークトパンターに装備された大口径砲はいとも容易く竜鱗を貫き、物言わぬ屍にせしめた。


「ワイバーンの方は…よしよし、順調に叩き落とせてるな。その調子で頼む!」


 ワイバーンが反撃しようにも、5両を数える対空戦車 - アメリカ製M-19対空自走砲やドイツのメーベルワーゲンの対空弾幕に遮られ近づくどころかポコポコと上空で叩き落とされている。


 すでに解体が始まっている地上など意に介さず、制空権を取り戻さんと空の竜にまでその牙を剥いた。


 これならもう安心かと胸を撫で下ろしかけたその時…


「グギャォォォォォォォ」


 鳴り響く咆哮。皆が一斉に視線を向けた先には、ゴジラもかくやという巨大 - アルプスの悪魔と呼ばれる古代竜がそこにいた。


「んなっ…バカな!なぜこんなところに!」


 鷲崎の言葉がはそこにいるもの全ての言葉を代弁している。


 一瞬の静寂ののち、


「Attention!!!」


と、冷静さを取り戻した舞山の怒声が響き渡る。


「中戦車は3両を駆逐戦車隊の護衛に向かわせろ!あいつらには前線に動いてもらうからな!総員!さっさと目の前の残党を片付けろ!古代竜だろうが何だろうが!俺たちには戦う以外の選択肢はない!」


「「「「「イエス・サー‼︎」」」」」


弾かれたように全員が動き出す。そう、彼らに選択肢などはなからない。前進以外の道など、残されてはいないのだ。

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