第2話

「えーと第一次世界大戦は…サラエボの銃声だっけか。この本、何回読んでもいいなぁ(棒)」


歴史が苦手な人からすればただの予習。しかし、今の彼にとっては立派な現実逃避。


やれ他の人はこうだの役に立たない模型が出ただのとぐちぐちと悩んでいた彼のところに、ひょっこり顔を出したのは彼の旧友鷲崎研一。


「よう舞山。確か今日で15歳、半年後には国防軍の花形中央アルプス鎮台の…第七師団勤務だったよな。誕生日祝いも兼ねて餞別だ…ってお前その模型どうした?」


「どうしたもこうしたもの聞きたいのはこっちの方だ!なんで銃が二挺来てるんだよそしてこの模型はなんなんだようだうだうだ」


そして舞山は十数分ほど怒鳴り続けスイッチが切れたかのようにお気に入りの肘掛け椅子にだらしなく座り込んだ。


舞山が黙ったのを見計らった鷲崎が取り出したのは一冊の歴史本。その名も【諸説日本史図録第30版】。


とりあえずこれでも読んで落ち着けとばかりに差し出された本を受け取り、舞山は平静を取り戻し、鷲崎は模型をいじり始めた


以下諸説日本史図録第30版から抜粋


この国の歴史の転換点は前に話した通りだが、いかにして国民皆兵が復活したか。前巻では二時大戦までを述べたが、これからの歴史は2000年台からの話となる。留意しておくように。


2025年の俗にいう〈大災害〉によって、日本は根本的な方針転換を迫られ、当時の首相舘崎義文たてざきよしふみの元、再軍備、または一般的に国防組織化と呼ばれる政策が開始された。俗に言う「血のサンタクロース」現象をもとに国民一人一人に出生地、又は各地での勤務(と言っても、普段は普通の生活を営み、有事の際にのみ武装する程度のこと)が課せられるようになった。


もう一つの巨大な影響はなんといっても経済。取引の主要品目が魔物素材へと大転换を遂げ、皮肉なことに日本経済は输出利益の爆増により巨额黒字を迎えた。魔物素材が取れるのはほとんど日本のみなので、自動的に世界シェア1位の座に君临している。


又、日本の世界経済での立場を確固たるものにしたもう一つの立役者が傭兵、ボディーガード産業である。いくら日本国内で発生するとはいえ、地形上撃ち漏らしが発生するのは否めない。そこで日本人の傭兵の出番。貨物船や航空機一隻又は一機につき2人ほど雇われて警護を…


「うわっ!え?はぁ?」


そこまで読んだところで彼の思考は急に聞こえた叫び声によって途切れた。


「なんだよ鷲崎、ていうか勝手に廊下に出るなよ…」


そう言って舞山が部屋から出ると、そこには腰を抜かした鷲崎と、手のひらサイズだったのがラジコンより一回り大きいくらいのサイズまで巨大化した戦車のSD模型(だったと思われる物)とがすっ転がっていた。




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