ほんとうに君って人は


春、一人暮らしを始めた。


一人暮らしを初めて直ぐ、私は誕生日を迎えた。今年で21にもなるが1人で過ごす誕生日は初めてだった。


なんだろう、過ぎる時間がやけに虚しい。本来ならばやりたいことがあって入った会社も当たり前のようにパワハラが横行しているので帰宅すると虚無であった。毎夜毎夜、次の日のことを思っては憂鬱になり、朝目が覚めれば体の芯から冷えが起こり職場では手が震えた。


もちろん私の誕生日も例外なくそういう夜を迎えた。いや、迎えるはずだったのだ。


しかし実際はそうはならなかった。夕食時に突然訪れたインターホンによって。


丁度食べる頃に鳴ったものだから煩わしさを覚えながら玄関に向かう。適当な返事をして荷物を受け取り、はて、何か頼んでいたかなと思いながら伝票に目を落とした。


同時に荷物も落としそうになった。


品名を見れば、私が欲しかった物の名前があった。な、なぜ?と頭にクエスチョンマークをうかべる私、実は心当たりがあった。


少し前に幼なじみの君とメッセージをしていたときにポロッと零したのだ。ついでに、逢いに来て欲しいという意味をうっすら込めて自分の住所も零してしまった。


とはいえたかだか流れていくメッセージのホンの1部であった。故に私はまだ半信半疑であった。


しかし、送り主の名前を見た時、それは確信に近いものに変わった。


君と昔、ゲームで遊んでた時のプレイヤー名が印字されていたのだ。ここで敢えて本名を使わないあたり君らしいなと思いながら、お礼のメッセージを送ろうかとスマホを手に取る。


案の定送り主は彼だった訳で、なかなかニクいことをするね。と言えば、なんてことない。と素っ気なく返された。


やっぱり君って人は、どこまでも私の心を掴んで離さない。


君のおかげで夜が少し怖くなくなった。


朝の楽しみが増えた気がした。


君という人が、私の幼なじみで良かったと心から思うよ。本当に。

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