第153話 天魔眼と天滅眼
「......うっ、ここは......?」
カイが目を覚ますと目の前には青空が広がっていた。
そして、その空を覆いつくすようにソラの顔が覗き込んでくる。
「カイちゃん!」
ソラはカイが目を覚ましたことに気が付くとすぐさま抱きついた。
それはまるでカイとこの世界でやっと再会できた喜びを表すように強く。
また、ソラの体は小刻みに震えていた。抱きしめられてるからこそよりその震えがカイに伝わっていく。
カイはぼんやりとした意識の中、とりあえず上体を起こそうとするとその途端に全身に激痛が駆け巡った。
それは今まで味わったことのない、まともに体を起こすこともままならないほどの痛みで生きてることが不思議に感じられるぐらいだ。
「カイ、無事で良かった」
「カイさん、気分はどうですか?」
「全く、さすがに焦ったのじゃ」
すると、エンディ、キリア、テュポーンが様子を尋ねてくる。ヴァネッサも心配そうな眼差しを向けていた。
その言葉にカイは「とりあえず生きてるみたい」と返答すると今の状況を思い出しすぐさま皆に聞いた。
「万理......いや、フォルティナはどうなった? それに他の天恵者も」
その直後、言葉を聞いた皆が困惑した表情を浮かべて顔を見合わせていく。
「何も覚えてないの?」
「あぁ、何も思い出せない。こうして全員が生きてることからして退いてくれたって推測はできるけど」
「......横を見て」
エンディの言葉にカイは怪訝な様子で従った。すると、すぐにその顔色をした意味を理解する。
「な、なんだこれは......!?」
カイが横を見るとそこは―――かつて竜王国であった場所は原形もなく地形が変わっていた。
無数の抉れ凹んだ大地、焦土、不自然に出来上がった氷山、無数の焼け焦げてなぎ倒された木々、そして大きく抉れた山とそこが竜王国とは思えないほどに。
カイがその光景に目を白黒させているとテュポーンがこの原因を答えていく。
「こうなったのは簡単に言うとお主とフォルティナ様による衝突の結果じゃ。
語ってやろう―――お主が目覚めるまでに何があったのかをな」
――――数時間前
それはフォルティナがカイに触れた直後に起きた爆発の頃にまで遡る。
白い輝きを放つ巨大な爆発はカイとフォルティナを中心に半径二百メートルの範囲を容易く飲み込んでいった。
その爆発に二人以外のソラ達、天恵者達はそれぞれの力でその爆発を防いでいく。
爆発が収まるとその場一帯は正しく焦土となっていた。
木々も瓦礫も何もかもが爆発で消滅していき、そこに残るのは焼き焦げた大地のみ。
「ゴホッゴホ、大丈夫かお主達?」
「えぇ、大丈夫よ」
「私も大丈夫。キリアちゃんもヴァネッサさんもいる」
テュポーンの言葉にエンディとソラが答えた。
無事がわかるとテュポーンは一点を見つめすぐに告げる。
「なら、早くこの場から引き下がるぞ。ここはもう命がいくつあっても足りない」
「そうね。天恵者達がいつ攻撃してきてもおかしくないものね」
「いや、それは違う。この場で一番危険なのはカイ―――あやつじゃ」
「それってどういう―――っ!?」
その直後、この場にいた全員がまるで死神の鎌が喉に押し当てられてるような戦慄を感じた。
日中の今がまるで寒冷地のように寒く感じ、体中がアラートを発するように震えが止まらない。
まるで生まれて初めて「死」という存在を知ったかのように、抗いようのない運命のように誰しもがその場から動く気力をそぎ落とされていく。
その中で明確にわかるのはこの圧はフォルティナのものではないということ。
体を地面に押し付けるような異常な魔力の圧から感じるのはカイの魔力だからだ。
そんな彼女達の一方で、フォルティナとカイの方でも動きがあった。
フォルティナは驚きで目を見開いた様子でカイを見ている。
そして、明らかに起きた変化に怒りが湧き始めた。
「お、お前のその左目......目に宿る紫色のオーラ......なぜ、なぜ! お前が我が求めていた“天滅眼”を持っている!? よりによってなぜお前が!?」
指をさして尋ねるフォルティナであったが、カイの意識はまるで別にあるかのように一人でに何かを呟いている。
そして、「そうか......それが君の願いか」と呟くとそっと顔を上げて禍々しく変形した刀をフォルティナに差し向ける。
その左目からは涙が流れていた。
「今から......万里を滅する」
カイはそこからノーモーションで刀を振るった。
その攻撃に恐怖を感じたフォルティナはすぐさま目の前に空間の裂け目を作りだす。
直後、フォルティナの背後にある
―――プシュッ
「!?」
フォルティナの頬に切り傷が出来てそこから血が噴き出していく。どうやら完全に防げたようではなかったみたいだ。
「我によくも傷を!」
それはほんの僅かそれこそ一秒にも満たないほどの刹那の時間で意識を傷へと向けただけだった。
だが、その傷にフォルティナが激高してカイを見た時にはもう目の前にはいなかった。
気づいた時には背後に立たれている。
目の前にいた身もそぞろな圧を放っていた存在がなんの気配も音もなく背後にいる。
無防備な背中をさらけ出してしまっている。
「
フォルティナはすぐさま指をパチンと鳴らしてこの世界の時を止めた。
しかし、カイの振り回した左足がまるで別の意思を持つように止まった時間の中でそのまま動いている。
いや、よく見れば止まっているはずの時間の中でカイの体がスローで動いているではないか。
「がっ!」
その蹴りはフォルティナが時を止めるのを把握したような動きで、その蹴り足がフォルティナの横っ腹に入っていく。
そして、時が元に戻ったと同時にフォルティナは勢いよく吹き飛ばされた。
カイはそのフォルティナを追いかけるように移動し、先回りすると左手の禍々しい銃を向けた。
「
しかし、フォルティナは重力を強めてカイとの間合いを詰めると服を掴み、真下にある地面に向かってぶん投げた。
カイが地面に勢いよく叩きつけられるとすぐさま追撃を行っていく。
「
フォルティナの周囲には無数の炎、風、水、土、雷の球体が浮かび上がりそれがカイに向かって一点に降り注ぐ。
そこには無数の爆発が起こり続けるが、フォルティナはそれでも過剰だと思う得るほどに攻撃を加えていった。
フォルティナがようやく攻撃を終えた頃にはそこにはまるでその世界の深淵を覗くような巨大な穴が出来上がっていた。
「ハァハァ、我に逆らうからよ」
「
「っ!?」
その直後、フォルティナの左右から瞬く間に出来上がった二つの氷山が挟撃を仕掛けてきた。
その広範囲の質量体にフォルティナは空間転移でその場から離脱していく。
「ここか」
「なっ!」
すると、フォルティナの真上からまるで移動場所を把握していたようにカイが刀を振り下ろしてきた。
フォルティナはそれを白刃取りしようとするが両手を使ったことが仇となり、左手の銃でゼロ距離から腹部を撃たれて地面に落下していく。
カイはそのフォルティナに追撃せんと真下に落ちるように空中を蹴ると勢いよく垂直落下。
だが、途中で真横から現れたフォルティナの足によって追撃を防がれてしまった。
攻撃をガードしたカイは地面に着地するとフォルティナを見た。
すると、フォルティナもカイを睨み返すように見返していく。
一触即発。これから第二ラウンドが行われるという場面で先に変化が起きたのはカイであった。
「がはっ」
突然の吐血。押し寄せるような激痛に体の言うことが聞かなくなり、刀を支えに立とうとするも立ち膝が精一杯となった。
それを好機と見たフォルティナだったが、足を一歩踏み出した瞬間力が抜けたように同じように崩れ落ちた。体に力が入らないのだ。
「くっ、あと少しなのに......」
「やはり、やはりその力が大敵であったか......」
各々愚痴のような言葉を漏らしていく。
すると、その光景を他所で見ていたヴァレスとザインはカイが弱っているのを好機と見て近づこうとするが、そのカイの周囲にソラ、エンディ、キリア、テュポーンが立ち塞がった。
「もしカイちゃんを狙うんだったら容赦しないよ」
「私達でもあなた達の足止めは出来る」
「もう誰も奪わせません」
「さて、妾がいればお主達の弱っている大将を狩ることぐらいは十分に可能じゃ。違うか?」
敵意剥き出しの四人の乙女にヴァレスとザインの二人はすぐさまフォルティナのそばに駆け寄り、二人でフォルティナを担いでいく。
「ま、そこで脅威を排除できれば良かったけどね」
「ですが、それは不可能なことぐらいわかってました。
ですから、敢えて行動を見せてあなた方の行動を縛らせてもらったのです。
その行動の方がこちらも動きやすいですから」
二人は空間に裂けめを作ると後ずさりしながらその空間に入っていく。
すると、フォルティナが捨て台詞のように告げた。
「次こそはその目を貰う。その時こそこの世界の命運が決まる時となるだろう」
そして、フォルティナ達は消えていった。
「無事に引いてくれましたね」
「正直、まともに相手するのは避けたかったしね」
「今の妾も万全とはいかんからの。相手が理性的で助かった」
「それよりも、カイちゃんだよ。カイちゃん、大丈夫?」
「あぁ、だい......じょう......」
ソラの言葉にカイは返答半ばで倒れた。その後、ソラが大慌てになったのは言うまでもない。
―――そして、現在
「―――とまぁ、こんな具合じゃ。あれは一種の力に振り回された暴走形態ってところじゃな。
もはや痛みを知らない人形のようでフォルティナ様の方が人間味があったぐらいじゃ」
「そんなことが.......あ、そういえば、シルビアは? 先ほどから声が聞こえないが」
「恐らく酷使したせいで眠って回復してるところだろう。
相手が相手だったし、お主も暴走していたしで仕方ない結果じゃな」
「そうなのか。すまない、色々迷惑かけたようだ。後でシルビアにも謝らないとな」
その言葉に対し、ソラがそっと首を横に振った。
「ううん、そんなことないよ。だって、あの人はカイちゃんの大切な人なんでしょ?
そんな無茶をするぐらいの大切な人を助けたいと思ったんだから仕方ないと思ってる」
「そうか。気を遣ってくれてありがとう」
そして、カイは小さく「助けたい、か」と呟いた。その言葉に気付いたのはエンディだけ。
「それでは一先ず聖王国に戻った方がよろしいのでは?」
「そうね。まずはカイの治療と今後に対する相談も含めて」
ヴァネッサの提案に乗った一同は聖王国へと帰還した。
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