第154話 人ならざる者
「―――なるほど、そんなことがあったのですね」
カイ達が聖王国に戻ってから数日後、カイがある程度動けるまでに回復した所でルナリスがいる教会に同郷の仲間や聖女三姉妹も集まってその時の状況を話した。
その話を聞いたルナリスはどこか安堵した様子の口調であった。
恐らく、この世界の切り札的存在のカイが戻ってきたことに安堵しているのだろう。
だが、すぐに気持ちを暗くしたようにカイへと謝罪した。
「申し訳ありません。フォルティナの襲撃は予想していたのですが、私達だけではライナちゃんを守ることが出来ませんでした」
そのルナリスの謝罪に同じくして聖王国にいた仲間は申し訳なさそうな顔をする。
なぜなら、カイは信頼して自分の命より大切な娘を置いていったのだ。
それを守れなかったのは信頼に対する裏切りと同じである。
ツバサやマコト、テツヤ、ミスズ、エンリ達聖女三姉妹、そしてシロムもカイへと深々と頭を下げていく。
それこそどんな叱責も受け止めるつもりで。しかし、それに対するカイの返答は思いのほか軽かった。
「別にそこまで気にしなくていい。相手が相手だ。それに奪われたことでわかったこともある。
フォルティナはライナに対して母親のような態度をしていた。
その後に色々と言っていたが、あの時の顔は俺が良く知る万理の顔だった。
だから......大丈夫だ。頭を上げてくれ」
カイは笑ってそう告げる。拍子抜けするようなカイの態度に一同は戸惑いながらも顔を見上げた。
「お兄ちゃん、本当に怒ってないの?」
「今怒ったところで何が変わるわけでもない。
それに悪いと思ってる相手に追い打ちをかけるのは俺は好きじゃないからな」
その一方で、戦いを直で見ていたソラ、エンディ、キリアの三人はどこか渋い顔でカイを見つめた。
一つの話が一段落した所で、ルナリスは先ほどの話題へ戻すようにテュポーンに質問する。
「テュポーン、フォルティナがどれぐらいダメージを負ったか把握したいのであなた基準で後どのくらいで倒せそうですか?」
「そうさな......恐らく、妾の全力魔力のブレスで半分の確率と言うべきかの」
「ということは、短く見積もって一週間ぐらいですか。その時を目安に聖戦の準備を進めた方がいいでしょう」
ルナリスの言葉に全員がざわめく。特にカイの実力を知ってる者達からすれば、カイがボロボロになって帰ってくる敵がいるというだけで脅威だろう。
その時、カイが戦った感覚を思い出してルナリスに聞いた。
「なぁ、フォルティナはあれで全力だったのか?」
「いいえ、せいぜい3割ぐらいでしょう。そもそも私達が下界である人間界に居るためには器が必要です。
フォルティナはカイ様の妻であるマリ様という器を用いてますが、あれは神界で定着させたもの。
となれば、フォルティナが現れた時の姿は人間界に逃げてきた時の私と同じと言っていいでしょう」
「だよな。攻撃の手ごたえが軽すぎた」
そんなカイの一言に現場にいたソラ達からすれば「あれで!?」という反応であった。
しかし、カイは十分におかしい存在と考え直すと納得かもしれない。
「では、ここらで聖戦での想定される相手の行動を予想して見ましょう」
その言葉にマコトが「そんなこと出来るんですか?」と聞くとルナリスは「同一存在ですから」と答えて言葉を続けた。
「まず初めに、フォルティナはこの人間界に降りてはきません」
「え、来ないの?」
ソラの疑問はカイ以外の全員の総意のようなものだった。
聖戦といっても侵略戦争のようなものなのだから全員が敵は人間界に攻め込んでくると考えていたのだ。
しかし、カイはこれまでの敵の感じとフォルティナがルナリスと同一存在という点を鑑みた。
「なるほど、来なくても勝てるからか。それに攻め込まれてもホームであるから有利だと」
「はい、その通りです。現状、フォルティナは“神にしか扱えない”天魔眼という魔法を使うことにおいては唯一無二の目を持った創造神です。
創造神ともなれば神兵―――神影隊をいくらでも作り出すことができ、使い捨ての物量戦を挑まれればこちらのジリ貧は待逃れないでしょう」
その言葉にミスズが「そんなぁ、ヤバイじゃん」と反応する一方で、エンディが頭に浮かんだ疑問について質問した。
「なら、なぜ今までぜんぜん神影隊は来なかったの? それをもっと早くやってれば今頃私達に抵抗されてないと思うけど」
「そうですね、これは私達からすれば幸運なことでフォルティナからすれば致命的なミスと言えることでしょう。
フォルティナは神影隊を作り出すよりも器との精神のリンクを優先させたのです。
その結果、私との戦いで生き残った僅かな神影隊しか動かせなかった。
加えて、そのリンクが予想よりも時間がかかったのも要因と言えるでしょう」
「そうか、万理に助けられてたんだな......」
そのことにカイは少しだけ嬉しそうな、そして無理させたことに申し訳なさそうな複雑な表情を浮かべた。
「とはいえ、フォルティナは聖戦までに体を回復させて、同時に作り出した神影隊で攻撃してくるでしょう。
しかし同時に、その時が私達の最大の攻撃のチャンスと言えます」
「それがさっき言ってましたフォルティナ様は人間界に降りてこないという話ですか?」
エンリがそう聞くとルナリスは真面目な声で「はい、その通りです」と答えた。
「神界は人間界と違って魔力供給率が百パーセント―――つまり無限に魔法が使える場所なのです。
フォルティナからすればわざわざ人間界に降りて戦うメリットはありませんのでその場に留まり続けるでしょう。
当然、私では勝ち目がありません。ですが、天滅眼を持つカイさんならその効果を制限なく使えるはずです」
「そうだな。フォルティナは天魔眼と対をなす存在的な感じで天滅眼のことを言ってました。
それが同じ神にしか使えないものだとすれば神界では十全に使えるってのも納得です」
しかし、カイは「だが」という言葉を強めに言うとルナリスに聞いた。
「なぜ俺がこれを持っているんですか? 俺はいつから神にでもなった?」
カイの質問はもっともなことでカイが神でない以上その目を持っていても宝の持ち腐れと言えよう。
しかし、カイはフォルティナとの戦いでフォルティナが止めた時の中を動くという形で天滅眼を使っていた。
それが意味するのはカイが神になったということだ。
しかし、カイは生まれも育ちも人間界。それも魔法のない神が存在するかどうかもわからない世界だ。
その疑問にルナリスは嘘偽りなく答えた。
「それは恐らくカイ様の中にずっと眠っていたからでしょう。そして、そのカギが五大天使の権能。
カイ様は旅の道中で結果的にですが五大天使を助け、自らの内に眠っていた天滅眼の封を解いていたのです」
「俺の中に......!?」
カイにとっては突拍子もない話だ。
なぜ異世界の神にしか使えない力が別世界生まれのカイに渡っているのか。動揺するのも仕方ないことだ。
「フォルティナとの戦いでは残り一つといった封がフォルティナの天魔眼による干渉で半分解けた状態になったのでしょう。
ですが、それは神ならざる者には過ぎた力。全身の激痛はその力を行使した反動。
残りの封が解けていれば死は避けられなかったでしょう。
そういう意味ではテュポーンから力を受け取らなかったのは不幸中の幸いでしたね」
「妾もお主に他の同胞の力を感じたから譲ろうとも考えたが、一応ルナリス様の指示を仰いでからにしようと思ったのは英断だったかもな。
それに先のルナリス様の文言からすればカイの体内にあったことも重要よな?」
「はい。カイ様の体内にあったことでその目が持つ魔力がカイ様にしっかりと定着していたので激痛だけで済んだのでしょう。でなければ、今頃は全身から血が噴き出していたでしょうし」
「うわぁ、それは考えたくないな」
カイは思わず嫌な顔をする。想像しただけでもモザイク必須の光景にならなくて安堵しかない。
「さて、これでフォルティナの襲撃予想期日並びに予想しうる行動、天滅眼の存在、俺が生きている理由がわかった。ここまで重厚な話を聞けばもう後どれだけ濃い内容を聞いたって同じだろう」
そう言ってカイは一回深呼吸する。そして、覚悟を決めるとルナリスに聞いた。
「ルナリス様、あなたは知っているんでしょう―――万理の正体を」
その言葉にその場にいた全員がカイを見た。
なぜなら、一緒に過ごしてきてマリは人間であることを信じて疑いもしないはずのカイが“マリが人間である”ということを疑ったのだ。
そんな突拍子もない質問にソラ達ですら動揺している。しかし、その質問にルナリスは静かにハッキリと答えた。
「はい。マリ様は人間ではありません」
その言葉にカイと同郷の地の者達はさらに混乱した。
それこそ訳の分からないことにさらに訳の分からないことが重なったように。頭の中はグチャグチャだ。
当然彼らにとってはマリの存在は知らない。
知っているのはカイの妻ということだけ。
なら、マリという存在は一体何者なのか。
その想像がついているのはただ一人―――カイだけだ。
「そうか。やっぱりか」
「いつから気付いていたのですか?」
「確信を持ったのはルナリス様の話を聞いていた時です。
もともと白夢から万理のこの異世界での活躍っぷりを聞いていて、天恵者の一人に襲われた時に白夢が聞いた謎の発言がきっかけでした。
しかし、あまりに情報が少なすぎて途中で考えるのを止めてたんです。
ですが、天滅眼というフォルティナに対抗するような力が俺にある理由......それを万理の話と交えたら一つの可能性が浮かんだんです」
「素晴らしい推察ですね。先ほど言った通りマリ様は人間ではありません。
ましてやあなた達のいた世界で生まれた存在ですらありません。
マリ様は言うなれば私が作り出したもう一人の神。それが彼女の本当の正体です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます