第151話 悲劇と再会は突然に
膠着したように二人の少女がボロボロになって立っている。
その二人は方や神影隊を超える天恵者と言われる人物で、その相手に対するはただの風魔法が得意な少女。
その結果はすぐに終わる―――はずだった。
しかし、現状二人は全く持って互角という様子であり、もし違いを見出すとすれば焦りの顔を見せる天恵者マリネに対して、キリアが不敵な笑みを浮かべてることか。
「どう? やるようになったでしょ? 伊達にカイさんと一緒に旅をしてきて色んな出来事に巻き込まれてないからね」
「くっ、ありえない。どうして......どうして私と互角にやりあえるのよ!」
マリネは思わずキリアに向かって自分の苛立ちを募らせる原因の質問をした。
本来なら赤子の手を捻るように終わるはずの戦いがここまで長引くこと自体マリネには想定外なのだ。
その質問に対し、キリアは依然として弓を構えながら答える。
「それは......あたしがあたしを許せなかったからだよ」
「許せなかった......?」
その言葉はマリネにとって違和感しかなかった。
その質問に返ってくるである言葉を想定するなら「ずっと修行してきた」やら「連れ戻すために秘術を学んできた」とずっと自分を探していたキリアが自身の努力を主張する言葉だと思っていた。
しかし、いざ来た言葉は想定したものではなく感情面の話で、それも自分に対する。感情が高ぶって強くなれるなら苦労しない。
「ふざけないで。そんなものが答えになるはずがない」
「うん、これはきっと正しい答えじゃない。そんなことはわかってる。
だけど、これがあたしの中で一番大きい意味を持っているから。それに答え自体は質問の前に言っちゃたしね」
「まともに答える気がないってこと?」
「全部まともだよ。あの時、あたしにマリネを止められる力があれば今頃こうはなっていなかった。
あの時、あたしは自分の弱さを呪った。だから、次に会った時には全部想いを受け止められるようにって、そして今あたしはマリネの全力を受け止めてなお立っている。そのことが嬉しいの」
「だから、さっきからずっと笑ってるのね」
マリネはギリッと歯を噛みしめた。それは彼女にとって不都合であるかのように。
「それにあたしはずっと疑問に思ってきた。
マリネに裏切られたあの時、あなたはどこか悲しそうな、寂しそうな目をして私を見た。
殺せるはずの場面で殺さなかった。その行動にあたしは何かわけがあるって思ってたの。
確かにマリネが森をめちゃくちゃにした敵の仲間になったことは許せない。
だけど、マリネは優しい子だってあたしは知ってる。
だから、何か意味があるんじゃないの? こうして一人でに現れたのも」
「私は純粋にかつての因縁にケリをつけに来ただけよ!
だから......だから......せめてキリアにはここで倒れてもらわないと困るのよ!」
「やっと感情を見せてくれたね。でも、あたしは倒れない。倒れてやらない」
マリネは動き出した。それに対し、キリアは武器である弓を捨ててそっと目を閉じると周囲に意識を向ける。
自分の肌に触れる空気の揺れ、髪を撫でる風の流れ、感情による威圧感の矛先。
それらを冷静に読み取って握りしめた拳を後方に振るった。
「っ!」
その拳はブワッと虚空を殴った。その十数センチ先には髪を揺らすマリネの顔がある。
「ぐっ!」
その攻撃はマリネにギリギリで交わされて逆にマリネからの強烈な蹴りがキリアのわき腹に直撃する。
その重い一撃にキリアは吹き飛びそうになるも脚を踏ん張らせて立ち止まり、口から血を流しながらもマリネにニヤッと笑ってみせた。
そして、両手でマリネの足を掴むとそのまま思いっきり近くの民家に投げ飛ばしていく。
だがすぐに、その瓦礫を風で吹き飛ばしたマリネが現れる。
「いい加減倒れてよ!―――
マリネは嵐のような暴風を片足に纏わせるとその足をキリアに向かって思いっきり蹴る。
その蹴りから生み出された渦巻く暴風は容易くキリアを飲み込んでいった。
風にかき回されるように体を弄ばれていくキリアは体が軋むような圧を受けながらそのまま上空へ持ち上げられた。
その暴風から打ち上げられた先に待っていたマリは空中機動を利用して勢いよく降下していく。
そして、ライダーキックばりの垂直飛び蹴りをキリアに食らわせた。
「かはっ!」
マリネのハイヒールの神気武装がキリアの腹部にメリメリと食い込んでいき、それによってキリアは血を吐きながら垂直落下していく。だが、変わらずに不敵な笑みを浮かべていた。
「これなら確実に当てられる」
「何を......っ!?」
キリアは自身の手に風を収束させていく。
それは最初にマリネを風の力で吸い込むために使った技術で、それを利用してキリアの右手に周りの激しく渦巻く風を集めていった。
だが、それは神気武装を持たないキリアにとって自傷を伴う行動であった。
激しい風が切り裂く刃となり、キリアの右手を切り刻んでいくのだ。
「キリア! 右手が!」
「やっぱり人のこと心配してくれるなんて優しい所あるじゃん。
でも、心配無用! これぐらい覚悟してたから!
それから友として言ってあげる―――歯を食いしばりなさい!」
キリアは体を横に向けるとそのまま左手でマリネの足を引いていく。
そして、互いの位置を入れ替えると大きく振りかぶった右手をマリネの頬にぶつけていく。
「
高密度に圧縮された風はマリネを勢いよく地面に叩きつけると一気に爆発してその周囲一帯の瓦礫を簡単に吹き飛ばしていくほどの風が吹き荒れた。
風は地面をも抉り取り、整備された地面をクレータの出来た凹地へと変化するほどに。
そのクレーターの中心には神気武装を解けて気を失っているマリネの姿がある。
一方で、風の勢いで上空に吹き飛ばされたキリアはそのまま落下していった。
しかし、途中でカイがキャッチして回収していく。
「お疲れ。しっかり想いは伝えられたか?」
「どうでしょう? こんなのはまだ序の口で全然足りないかもしれません。ですが、後はもう言葉で十分なはずです」
「そっか」
カイはキリアに衝撃を与えないように慎重に降りるとそこへすぐさま皆が集まってきた。
「キリア、無事でよかった。だけど、無茶しすぎ」
「ほら、右手治療するよ。女の子が傷を作っちゃもったいない」
「お疲れさまでした。お二人の戦い、とても心に染みました」
「パパの他にもイレギュラーが出来上がりましたね」
「ま、何はともあれ、あの者をどうするかじゃの」
そう告げるテュポーンの視線に全員もそちらに視線が向く。「あの者」とは当然天恵者マリネのことだ。
すると、カイから降ろしてもらったキリアが動き始める。
「あ! まだ動いちゃダメだよ!」
「ごめんね。でも、今はあの子のそばに居てやりたいの」
ソラの制止の声を振り切ってマリネはヨロヨロとした足取りでマリネに近づいていく。
そこへカイが近づき「手を貸そう」と言ってキリアに肩を貸した。
カイの協力を得てキリアはクレーターの中心で寝ているマリネに近づいていく。
そして、感覚のある左手でマリネの体を抱きかかえた。
「うっ......ここは......キリア?」
「うん、あたしはここにいるよ」
「そっか。私は負けたんだね。負けちゃったんだ......」
マリネはそっと目を腕で覆うと泣き始めた。
その姿はあまりにも敵として見るには惨めすぎる姿である。
だからこそ、キリアは今度こそマリネに尋ねた。
「ねぇ、マリネどうして裏切ったの?」
「私は......ずっと敵の内情を探っていたの」
「「!?」」
マリネの突然の言葉にカイとキリアは思わず顔を見合わせる。
それはマリネが自主的にスパイ活動をしていたと言っているようなものだったからだ。
これは全員が聞いた方がいいと判断したカイは残りの皆にも来てもらうように指示し、全員がマリネに集まると質問した。
「君はそこで何を見た?」
その言葉にマリネはピタッと泣くのをやめると自分を抱きかかえるように腕を抱きしめて震え出した。
「強大な力......あの力には誰にも抗えない。光が闇に飲まれる。
私はその人を間近で見て本能で理解させられた。あれは人が太刀打ちできる存在じゃない」
「それはフォルティナのことか?」
「そう。だから、私は目をつけられてるあなた達を倒してその存在を隠そうとした。
私が殺したと言えばきっと興味を失うだろうから。だけど、失敗しちゃった」
「それじゃあ、マリネはそれをするために裏切ったってこと?」
「それが私の天恵者としての使命だと思った。キリアやエルフの森の皆を守るために。
でも、半端じゃ疑われてしまうと思ったから......ごめんね、痛かったよね」
「ううん、そんなことないよ。ずっと守ってくれようとしてくれてたんだね。ありが―――」
「キリア!」
マリネは起き上がるとキリアを押し飛ばした。
それに驚いたキリアであったが、その直後衝撃的な光景を目にする。
「かはっ!」
それ細いレーザーによって撃ち抜かれたマリネの姿であった。
「マリネ!」
キリアはすぐさまマリネを抱きかかえる。そんなマリネはどこか嬉しそうな顔で呟く。
「今度こそ守ったよ。キリア......生きて......」
「マリネ! マリネ!!」
「キリアちゃん、落ち着いて! 私が治療する! 今ならまだ間に合う! 必ず死なせないから!」
目を閉じたマリネにキリアは動揺が隠せない。
そんなキリアを落ち着かせながらソラがマリネの応急処置を始めた。
そんな中、レーザーが来てるとすら認識できなかった自分自身に怒りを抱いてる男が一人。
「ほう、どうやら咄嗟に上手く急所をずらしたようだな」
張りのある強気な女性の声。カイが知っている人物とは誰も違うようだ。
カイは隠しきれない殺意の宿った目をその声の方に向けた。
その瞬間、その目はすぐさま戸惑いの目へと変わっていく。
クレーターの上にいたのは三人の男女と一人の子供。
そして、フォルティナと思わしきその圧倒的なオーラを放つ女性は―――
「万理......?」
カイがずっと探し続けた新神万理と瓜二つの顔をしていて、その手にはライナを抱きかかえていた。
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