第5話:反省と復讐・ナルシス

 全ては私の慢心が招いた事だ。

 自分が賢く腕が立ち美麗だと過大評価していたのだ。

 自分なら相手が何を仕掛けてこようと簡単に跳ねのけられると思い込んでいた。

 だがそれは間違いだった。

 あまりにも自分を過大評価し過ぎて、自分中心に考え過ぎていた。

 嫉妬に凝り固まったセヴリーヌが、ソランジュをあそこまで執拗に狙うとは考えていなかったのだ。


「ナルシス様、セヴリーヌとオディロンがどこにもおりません。

 ジョイシー男爵領にも戻った形跡がありません。

 ストラット城内の隠し部屋にも秘密通路にもおりません。

 恐らくですが、ナルシス様がセヴリーヌを面罵した直後に負けを悟って他国に逃げ出したものと思われます」


 密偵達の報告が私の心の傷をえぐる。

 更に傷口に塩をすり込まれるような痛みが走る。

 情けなくて自分自身に腹立たしくて八つ当たりしたくなる。

 だがそんな人間になってしまうとソランジュに嫌われてしまう

 心の美しい繊細なソランジュに好かれたくて、幼いころから自分を律てきたんだ。

 自分の愚かさを指摘されたからといって、家臣に八つ当たりなどしてしまったら、ソランジュに嫌われてしまう、我慢だ我慢。


「時間もお金もかけていい、冒険者や情報屋を利用しても構わない。

 どんな方法を使ってでもセヴリーヌとオディロンを探し出せ」


「御意」


「それで、ストラット伯爵夫人の処遇は決まったのか」


「はい、国王陛下が激怒され、八つ裂きの刑と決まりました」


「そうか」


 国王陛下も堪忍袋の緒が切れたようだな。

 まあ、さすがにこれだけ王家の名誉に泥を塗られたんだ、絶対に許せないだろう。

 事件の直前とはいえ、王族の地位を公式に剥奪していてよかったな。

 そうでなければモンタギュー王家はもっと陰口を叩かれていただろう。

 本来なら臣籍降嫁した時点で王族ではなくなるのだが、ストラット伯爵夫人は臣籍降嫁してからも王族として振舞っていたから、その点が曖昧になっていた。


「ナルシス様、差し出がましいようですが、ソランジュ様のお見舞いに行かれた方がいいのではありませんか」


 密偵がまた私の傷口に塩をすり込む。

 分かっている、直ぐに会いに行った方がいいのは分かっているのだ。

 だが、どの面下げてソランジュに会えばいいのだ。

 ソランジュに生涯残る無残な傷跡を残したのは私の慢心の所為なのだぞ。


 そんな眼で見るな、密偵。

 私の軟弱な本性など自分自身が誰よりも分かっているのだ。

 できるだけ早く「どのような姿になっても、私のソランジュへの愛情は変わらない」そう言わなければ、ソランジュが不安に思う事は分かっているのだ。

 分かっていて愛に行けない情けない男、それが私の本性なのだ。

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