第2話 起の承

 駅の南口に5時。白いコートが目印だと、そう言われた。知らない人と待ち合わせるのは難しいような気もしていたが、全く杞憂だった。白いコートの人物はすぐに見つかった。周りに2人、既に来ている。白いコートの人物は、20代前半の男性だった。黒髪短髪の、清潔感のある青年といった風だった。もしかしたら、俺より年下かもしれない。「鎌 成塗」さんのことは、勝手に女性だと思っていたので、正直驚いた。

 隣には、男性が1人と、女性が1人。

 男性の方は、割と歳がいっているように見える。40代だろうか。痩せて、ボサボサの髪をしている、その風貌のせいで老けて見えているのかもしれないけれど。伸びっぱなしの髭と濃い緑のジャンパーは、浮浪者感を醸し出している。「スマホ太郎」って言うほどハイテクな感じはしないし、「結実」って言うほどポジティブなオーラはない。彼はきっと「胡广」だ。

 女性の方は、眼鏡をかけ、パンツスーツを着て、キリッとしている。黒いアイコンの「スマホ太郎」は男性だろうと勝手に考えていたけれど、彼女こそ、「スマホ太郎」のイメージを体現していると言って良いかもしれない。

 俺はと言えば、出かける時はいつも紺のジャケットだ。

 ん? と、なると、「結実」さんがまだ来ていない、ということになるだろうか。などと考えながら、3人組に近づく。

「えーっと……こんにちは。鎌……さんでしょうか」

 「鎌 成塗」の読み方がまだ分からないままだったのを失念していた。

「はい、どうも、かませいぬ、と申します。初めまして」

 かませいぬ……噛ませ犬!? なんと嫌な名前だろう。自分を卑下するにも程がある。というか、だからアイコンがチワワなのか!?

「か、かま……」

 うーん、呼びづらいな。人に向かって「噛ませ犬」って言いづらいな。

「チワワさんって呼んでも良いですか……?」

「おお、なるほど」

 横にいた女性が、感心したように声を発する。

「良いですね、『チワワ』さん。そっちの方が呼びやすいです」

「構いませんよ。かまいませいぬ」

 ……おっと、こういうタイプの人なのか。言葉遊びが好きなのは俺もだから大歓迎だが、思ったよりレベルが低いな。

「あなたは、トウズさんですね?」

「違います」

「む、それでは、『むすび みのり』さんですか?」

「誰ですか?それ」

 チワワさんのムッとした顔を見て、女性がケラケラ笑い始めた。

「いや、実は、先に来ていた3人で、残りの人の名前の読み方を予想してたんですよ。外れましたか?」

「はぁ……俺は『トウズ』じゃなくて『ヒガシズ』と読みます」

「ああ、じゃあ、スマホ太郎さんも間違ってましたね〜。『アズマズ』って言ってましたっけ?」

 ん? 今、女性が男性を「スマホ太郎」って呼んだか? え? そっちがスマホ太郎なの?

「あ、名乗り遅れましたら。私は『ごまだれ』と言います」

 ごまだれ……「广」は「まだれ」って読むのか!

「自分は、『須磨 穂太郎』と言います」

 一体お前のどこが「スマホ太郎」だってんだよ!

 うーん、人は見た目じゃ分からないもんだなぁ。

「すいませーん! 遅れましたー!」

 ここで、最後の1人「結実」が、走ってきた。

 「結実」は。

 制服を着た女子高校生だった。

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