第12話 ファーストコンタクト!

 さて、俺は、廊下にそびえ立つ自動販売機の前で悩んでいた。


 この数あるアイテムの中で、女神さまの気を引くことができるのはどれだ?

 ウーロン茶? いや、今飲んでますがな……

 コーラ? うーん、今飲んでいるものと色は変わらない……だが、炭酸はいかがなものか? ゲップを気にして飲んでくれないかも…… 

 カルピス? うーん、ちょっとストレートすぎるか……

 やっぱりコーヒーかな? だが、女神さまの好みはブラックか、微糖か、甘々か? この選択は難しい。間違ったら一巻の終わりだ。


 いろいろなアイテムを一つ一つ消し込んでいく。

 すると、輝かしいアイテムが残ったではないか。

 おれは、そのアイテムを迷わずゲットすると、女神さまのもとへと駆け戻った。


 そこには相変わらず、盗賊のおっちゃんが、女神さまにちょっかいを出していた。

 こらぁ! 門番のおばちゃん! 女神さまをちゃんと警護しろよ!

 だがすでに、門番のおばちゃんは、下流から押し寄せてくるガイコツ戦士たちと乱戦状態であった。

 この時、俺は、上流迂回作戦が功を奏したと確信した。

 そう、俺は、いま上流に正座している。

 すなわち、門番のおばちゃんとは、女神さまを挟んで間逆の方向にいるのだ。

 もし下流から攻め込んでいれば、俺も門番のおばちゃんに返り討ちにあっていたかもしれないのである。

 これは超ラッキー!

 と言うことは、後は、この目の前にいる邪魔臭い盗賊のおっちゃんさえ何とかすれば、女神さまのもとにたどり着くことができるのである。

 よし! 盗賊のおっちゃん討伐クエスト発生だ!


 ということで……


 俺は、盗賊のおっちゃんの後ろに、ビール瓶を持って並んで座った。

 そう、女神さまにお酌をする順番に並んだのである。

 ソワソワする俺。

 そんな俺が気になったのか、盗賊のおっちゃんが振り向いた。

 そして、俺の持つビール瓶に視線を下げる。

「お前もつぎに来たのか?」

 並んだ俺を、残念そうな奴と言わんばかりに笑いとばす。

「この姉ちゃん、酒飲めないんだってよ!」

 馬鹿め!

 そんなことは先刻! マルっとお見通しだ!

 このビール瓶は、ブラフ! そう、盗賊のおっちゃんを出し抜くためのブラフである。

 まんまとブラフにかかった盗賊のおっちゃんは、おれに酒を注ぐ順番を譲ってくれた。


 ついに来た!

 女神さまとのファーストコンタクト!


 目の前に、綾波レイにの女神さまが、背筋を伸ばして座っている!

 襟周りにレースをあしらった白のブラウスに身を包むその姿は、まさに天女!

 まっ! まぶしい!

 以前お会いした時の赤と緑のワンピースもよかったが、こちらは清楚さが際立って、さらにイイ!


 俺は、正座のまま膝を動かし、前に出る。

 緊張で声が出ない。

 だが、ココで引き下がっては、意味がない。

 今こそ、婚活クエストの特訓の成果を見せる時である。

「あ! あのぉ! 注いでもよろしいでしょうかっぁ?」

 俺は背筋をピンと伸ばし、声を脳天の先から突き出した。

「私、お酒飲めないので……」

 俺の手にはビール瓶。

 しまった!

 間違えた、これは対盗賊のおっちゃん用のブラフであって、女神さま用ではない!

 俺は、慌てて、背後から一本のペットボトルを取り出した。

 そして、女神さまの目の前でキャップを回し、TEバンドをぱちんと外す。

 これが重要なのである。

 このペットボトルは未開封であると、女神さま自身の目で確認してもらうのである。

 そう、完全な未開封品ですよってアピールするのだ。

 TEバンドが外れているペットボトルなど、もしかしたら俺の唾液が入っているかもしれないから、当然、警戒されてしかるべき。

 俺って頭いい!

 そして、にこやかに、背後から取り出した空いたグラスを女神さまの目の前に置く。

 そう、グラスもすでに用意済みであったのだ。

 なんて言ったって、女神さまの目の前のグラスはウーロン茶が入っているのだ。

 さすがにそれを飲み干せとは言えない。

 相手が、男ならまだしも、女性、まして女神様相手にそんなことは。

 では、ペットボトルをラッパ飲み!

 それも悪くはないが、相手は女神さまである。

 ここはやはり、グラスに注ぐべきであろう。

 俺って気が利く!

 どんどんとモテ男ポイントがたまっていくような気がしていた。


 そして、俺は、女神さまのまえに置いたからのグラスに、俺が選びに選び抜いたアイテムをペットボトルからなみなみと注いだ。


 女神さまの目が、そのグラスを静かにみている。


 注ぎ終わった俺は、自信満々に勧めた。

「さあ! どうぞ! どうぞ!」


 なぜか、女神さまの顔が引きつっている。

 その時、ガイコツ戦士たちとの乱戦を制した門番のおばちゃんが駆け戻ってきた。


「コーヒー牛乳はないわ! わはははっははは」


 おばちゃんは、豪快に笑った。

 女神さまも、引きつった顔で愛想笑いをしていた。


 なぜだぁあぁぁぁ! なぜ! コーヒー牛乳ではだめなんだぁぁぁああ!

 カルシウムばっちり!

 お子様も飲めるコーヒー牛乳!

 これほど体にいいものがあろうか! いやあるはずがない!


 こうして、俺のファーストコンタクトは終了した。

 コーヒー牛乳おいしいのに……


 この時の俺は、女神さまがコーヒーを飲めないことを知る由もなかったのだ。。



【グダぐだの今日のつぶやき】

 女性渡すものは未開封!

 口にするものなら絶対条件!

 中身を見せたいのであれば、女性の目の前で開封すべし!!!

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