第10話 川中の合戦!

 さて、困った!

 対面の女神さままで、水平射角30度、距離は、10席ほど。

 近いようで、意外に遠い。

 この肉の溢れる川をどうにかして渡って、対岸に移らないといけない。

 その為には、上流もしくは下流へと移動し、大きく迂回するルートしかない。

 さすがに、川を乗り越えていくのはひんしゅくものだ。女神さまに見られでもしたら、行儀の悪い男に見られてしまう。


 だが、座敷の前では、今だにギルドの組合長が、なんかしゃべっている。

 長い! 長いんだよ!

 飲み会の挨拶は短めに!

 ビールの泡が消えない程度にまとめるのが、できる男というものだ!

 と言うことで、このギルドの組合長はできない男、決定だ!

 マジで! 長い!

 三行でまとめろ!


 その長い長い、無駄に長い組合長の話が終わるとともに乾杯の発声!

 その刹那、俺の腰は浮き上がった。

 だが、乾杯したててですぐに席を立つのは目立つ! 非常に目立つ!

 そう、まずは、自分のテーブル周りで親交を深めるものなのである。

 だが、今の俺には、親交を深めたい奴など近くにはいない。

 話しかけてこようとするオッサンを目で殺す!

 勇者の俺はすでに威嚇スキルを身に着けていた。

 貧乏ゆすりをする俺は、なぜかトラのオーラをまとっていた。

 ――邪魔するな! 俺はお目当ての女神さまの側によりたいのだ!

 不覚にも声をかけてきたオッサンは、ビールを注ぐふりだけをして、そそくさと退散していった。


 だが、読者の諸君は、童貞勇者の俺が、女神さまの側に近づいたところで、何もできないのではないかと思っているだろう。

 しかし、俺は、確実にレベルアップしていたのだ!

 そう、無意味な婚活クエストを何度もこなす中で、女性に近づけないという己の欠点をクリアーしていたのだ。

 そう、俺は輝いている!

 ボケれる俺ってかっこいい!

 マジで、この時は思っていたのだ。

 まぁ、勘違いもある意味、強みである。

 弱点も本人が認識しなければ、強みとなる。

 もう、一時的なバーサーカーモードといっても過言ではないだろう。

 だから、俺は、女神さまのもとに行っても、もしかしたら、という甘い期待を持っていたのだ。


 時が来た!

 会場がざわめき、人が動く。

 戦とは機先を制するのが上策。

 だが、ココは川中!

 上流から攻めるか、下流から迂回するのか、どちらにすべきか?

 俺は左右を伺った。

 人がたむろっているのは下流である。

 足の踏み場ありゃしない。

 あれらをよけて通るのは少々骨が折れそうだ。

 だが、上流はすいている。なぜなら、そこにはギルドの組合長を筆頭にお偉いさんが陣取っているからだ。

 そのため、人出の数は、少ない。

 すんなり通れそうである。

 しかし、もし、ここで組合長につかまりでもすれば、本日、女神の元までたどり着くミッションは不可能となる可能性がある。

 人は多いが下流を迂回するか……

 いや、やはり時間が惜しい!

 俺は、すぐに移動できそうな上流迂回ルートを選んだ。


 だが、敵本陣の横を通り抜ける危険な策!

 馬に乗るナイトやパラディンであれば、その機動力で駆ける抜けることもできよう。

 しかし、俺は童貞勇者である。残念ながら徒歩である。

 ならば、忍者のように、気配を殺していけばいいのでは。

 残念ながら俺は童貞勇者である。童貞臭は、どうやっても消えない!

 仕方ない、ココは勇者らしく、正面突破!

 二刀の剣の代わりに、二本のビール瓶を従えて、ゆっくりと歩む。

「組合長、そこ通りますね!」

 俺は無理やり、組合長の背後を押しとおった。

「おっ! 女のとこでも行くんか?」

 ぎくっ!

 気づかれた!

 やはり、童貞臭は消えていなかったか……

「いやだな。ちょっと焼酎を注ぎに行こうと思って」

「ワシのもついでに持ってきてくれ! 芋のロックな!」

「イエッサー!」

 俺は、急いで走っていった。

 そして、組合長の注文をガン無視した。

 だって知らんがな!

 どれが焼酎で、どれが芋なんか分かるかい!

 全部無色透明ですがな!


 そして、上流から迂回することに成功した俺は、この後、障害にぶつかることなく、女神さまと目と鼻の先まで近づくことができたのだ。

 しかし、そこには最後の関門が待っていた。

 そう、女神さまを守護する門番のおばちゃんであった。


 この門番のおばちゃん、結構強い!

 現在、女神さまにちょっかいを出しに来た盗賊のおっちゃん相手に、奮戦中であった。

 互いに酒を注ぎあって、飲むわ飲むわ!

 底なしか!

 俺は、門番と盗賊の不毛な戦いの様子を離れたところで正座しながら伺っていた。

 門番のおばちゃんの攻撃!

 盗賊のおっちゃんがひらりとかわす。

 門番のおばちゃんは笑い出した。お前はトルネコか!

 盗賊のおっちゃんは、ここぞとばかりに女神さまにちょっかいを出す。

 ビール瓶を突き出し、酒を勧めている。

 女神さまは、手を振り、その酒を断った。

 非常に困った顔をしている。

 よし! ここで助けに入ろう!

 それなら、男らしさアップで間違いなし!

 だが、俺は、次の瞬間、外の廊下に駆けだしていた。


 逃げた?

 逃げたのか?

 いや、違う!

 なら、トイレか?

 それも、違う!


 俺は、廊下の先にある自動販売機めがけて猛然とダッシュしていたのである。


 手を振り酒を拒む女神さまのコップにはウーロン茶。

 ――ははーん!

 観察スキルをすでに習得していた俺は、気づいた。

 ――女神さまは、お酒を飲めないようですね!


 女神さまを攻略するには、ビールではだめなのだ、必須アイテムは他にある!

 俺はピンときたのであった!



【グダぐだの今日のつぶやき】

 酒の席の挨拶は短めに!



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