第8話 捨てる神あれば拾う神あり!

 さて、一回目の婚活クエストを、誰とも話すことなく無事終了した俺である。

 女どころか、おっちゃん以外の男とも話すこともなかった。

 何をしていいのか分からないため、肉を焼いたり、魚を焼いたりと、ひたすら裏方に徹していた。

 マジで、ソロプレイをしているようなものである。

 だが、婚活におけるお楽しみイベント発生条件はペア以上のパーティである。

 ソロプレイヤーなどお呼びでもないのだ。

 無駄に一日と言う長い時間が過ぎていった。


 もう、二度と婚活パーティなぞ参加するか! と心に固く誓ったのは当然の事である。


 しかし、働き者の俺は目立っていた。

 あっちのコンロで肉をひっくり返し、別のコンロで魚が焼ければ皿に盛る。

 一人で、料理場を走り回るシェフのようなものであった。

 そんな俺を一目置いてくれたのが、夕日のガンマンのおっちゃんであった。


 おっちゃんは俺に言う。

「恥ずかしがっていてはダメだ! ここぞという時は、捨て身でどんどん押していけ!」

 唯一、話すことができたガンマンのおっちゃんの教えである。

 なぜか、俺の心にズーンと響いた。

 最後におっちゃんは言った。

「また、来月するからな! 今度はバスツアーだ! 楽しみだろ?」

 って、なんで俺は参加確定なんだ?


 バスツアーと言えば、狭いバスと言う空間で、男と女がすし詰め状態で移動するものである。

 否が応でも密着せざる得ない。

 だが、それは、緊張感がほぐれた帰りの車内。

 行きしは、やはり結婚していないものどおし、恥じらいがあるため、男は男と、女は女と相席をしていた。

 そんな時に、場を和ませるのは定番の自己紹介。

 自分の名前と、好きな物、自己PRを順番に述べていくのだ。

 皆、そつなくこなしていく。

 ただ、面白くない……

 やはり目立たなくては。

 目立たないと、自分の存在すら認識してもらえない。

 おっちゃんも言っていた。ここぞという時は捨て身だと!

 普通の事を言ったのでは、この前のバーベキューの二の舞だ。

 俺は考えた。

 そして、自己紹介で渾身のボケをかました。

 ヤンキーの兄ちゃんたちと培った、ボケを!

「グダぐだ男と言います! 好きなタイプはショートボブの女の子! とくに綾波レイが大好きです! 好きな体位は正上位! 童貞ですのであなた好みに染めれます!」

 バスの中が静まり返っていた。

 なぜ?

 隣の男性が肘で俺をつつく。

 なんか、もうしゃべるなと言わんばかりに、プレッシャーをかけてくる。

 俺は、静かに、マイクを隣の男性に渡した。


 バスを降りると、男たちが集まってきた。

「お前、あれはないわ!」

 笑いながら肩に腕を回してくる。

 恋人はできなかったが、男友達はできた。


 そうか、捨て身になれば、人が寄ってくるのだ。

 その後、「捨て身」スキルを身に着けた俺は、ことあるごとにそのスキルを発動した。

 捨て身は、一撃必殺! 目標にヒットすれば大ダメージを与えることができるが、逆に外すと、防御力を失った己が体にダメージが帰ってくるのである。


 飲み会で俺は、頭にはちみつを塗って、ツッパリ!

 顔にケチャップを塗って、ゾンビ!

 頭にマヨネーズを巻いて、インド人!

 意外に受けた!

 ただ、男達にだけだったが……


 女性陣はガン無視!


 こういう飲み会は、大学の時にしておけばよかった……



【グダぐだの今日のつぶやき】

 男性のおもろいのツボと、女性のおもろいのツボは違います。

 とくに、婚活など気合が入っている時に、下手なボケをかますと確実に一人だけうきます。

 周りではやし立てる男性陣も、もしかしたら、単に、ボケている奴をかませ犬にしているだけかもしれません。

 婚活の場は、笑いを取りに行ってはいけません。真剣に女性の心を取りに行くべきなのです。そう、そこは、婚活と言う名の戦場なのです!






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