第5話 魔王襲来!

 遂に、俺は、バイトでためた金でバイクを買った。

 赤のZZRだ。

 これで、俺も女にもてる!

 意気揚々とバイク屋さんから、帰ろうとした矢先、コケた。

 バイクに乗ろうと、自転車のようにスタンドをずらした瞬間、バイクの重みに耐えられず、そのまま転倒。俗にいう、立ちごけと言うやつだ。

 買って、5秒でブレーキが折れた。

 俺の心も、ついでに折れた。

 さすがに、お店の人も気の毒そうに笑っていたのが印象的だった。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。


 晴れて、これで俺もリア充だ!


 と、思ったのだけど……

 乗せる彼女がいやしない……


 うーん、どうしたモノか……

 なら、さっきのヤンキー女を乗せればいいじゃないというかもしれない。


 だけど、その当時はね、大学のある女性しか見えていなかったんですよ。


 その女性はショートヘア―の女の子で、どことなく奥ゆかしいタイプなんですよ。

 いうなれば、綾波レイを、もう少し、しゃべるようにして、友好的な感じにした娘かな。

 ……うん、そういえば、うちの女神さまも、似たようなところがあるか……のろけじゃないぞ! のろけじゃ!


 当時、その子にどう声をかけようか、悩んでいたものだ。

 その子が入っているサークルの前を通ってみたり、そのサークルに今からでも入ってみようかなどと考えていたり。

 講義の時は、何とか隣に座るチャンスはないだろうかとその子の様子を伺うも、周りは、女友達でしっかりガード。

 攻守ともに、ハイレベルの女賢者であったのだ。

 いまだ、見習い賢者の俺では、到底太刀打ちできなかった。


 バイトで、お客さんと話すことが、何とかできるようになった俺は、バイトのおじちゃんとのコミュニケーションもとれるようになってきた。

 ヤンキーに絡まれるうちに、ボケの立ち位置が心地よいことに気が付いた。

 俺って、意外にしゃべれるじゃん!

 って思ったのもこの時だ。

 コミュニケーションと言うスキルを身に着けた俺は、単発魔法ではあるが、確実に攻撃力が上がっていたのだ。

 自分の中にあるトラウマがなくなったことと、大声の発声練習が、いい状況に導いてくれたのかもしれない。


 てれれれってんてー!

 童貞賢者見習いグダぐだはレベルが上がった!

 攻撃スキル、ボケミサイル(単発)を取得した。


 ならば、この調子で、そのお目当ての子にコクりに行けよ!

 当時の俺に言ってやりたいのであるが、当時の僕ちゃんは、まだ、そこまでの勇者には成長していなかったのでちゅ。


 今から考えると、いろいろと言い訳をして、二の足を踏んでいたのでありますよ。

 まぁ、そんな調子ですから、声どころか側によることもできないまま。

 その女の子の周りをちょろちょろとうろつくだけです。

 まさにストーカー。

 今なら、即、通報ものかもしれませんな。わはははは。


 結局、声すらかけることもなく、大学卒業。

 えっ、もう終わり?

 終わりですよ! 大学生活なんて、なんもないですよ!

 バイクなんて、買ったはいいけど、通学用にしか使ってませんよ!

 しまいにはヤンキーどもの遊び道具ですわ!


 逆切れ? ああ! 逆切れですよ! なにか! 

 今、思い出しても何もしてなかった自分に腹が立ってきましてね!

 昔の自分に蹴り入れたい!


 そして、大学を卒業するころは、闇から目覚めた魔王の攻撃によって、世の中めちゃくちゃ!

 そう! 皆さんご存知の「就職氷河期」という、誰も経験したことが無い、MAP攻撃がこの国に放たれたのだ。

 もう凍てつく波動並みの、その攻撃力!

 就職戦線用にかけた補助魔法、おやじのコネや、大学の先輩おねがいしゃぁす! などの効果は簡単に消し飛ぶ!

 それどころか、せっかく頑張って生成した論文魔法も、就職戦線を前にして、その効果を失った。

 俺の同級生たちも、その攻撃をまともに食らっておりましたわ。

 賢者も、戦士も、遊び人も、自分が持つ特殊スキルを波動によって無効化されて、もはや、裸同然! この「就職氷河期」の前では皆な等しく無力。まさに、人類みな平等と言う感じだった。

 立ち向かっても立ち向かっても、次々と跳ね返される。

 徐々に失われる戦意と体力。

 次々と戦線離脱する仲間たち。

 あきらめて職業をニートへとジョブチェンジする者も多く出た。

 就職戦線に対して強い攻撃力を養成すると言われる我らの賢者系の大学でさえ、魔王の攻撃を直に食らって瀕死の状態。

 唯一生き残れるのは、ハイクラスの賢者のみ。

 まさに、あの彼女のように、持ち前の明るさとマジメさを持つモノだけ。

 彼女は、たぶんどこぞの企業に無事就職したような、しなかったような。


 まさか、魔王の攻撃が、マジであそこまでひどいとは思っていなかった。

 だって、それまで、普通に就職できるのが当たり前。

 バブルの時の就職戦線なんて、ちょちょっとフィールドに出て、スライムを狩ってくるような感覚だった。いや、それどころかスライムの方から狩ってくださいと頭を下げるほどなのだ。しかも、そのスライム、メタルですよメタル!

 その後、時代が変わっても、スライムとは言わないまでも、それでもオークぐらいなものである。

 たまに上級職の学生たちが、キマイラやサイクロプスクラスのモンスターを相手にしようとする場合があるが、我ら底辺の学生には関係ない話なのだ。

 だが、今回は、いきなり魔王襲来!

 しょっぱなから魔王は無いですわ!

 これは無理!

 魔王討伐用の装備なんて、日頃から備えているわけないじゃないですか。

 せめて持っていても鋼の剣がいいところ。

 そんな金があるのなら、パチンコで銀の球でも弾いていますわ!


 本当に。こんなに就職率が悪くなるのなんて、誰も想像すらしたことが無かった。

 国家公務員の高卒試験に、大卒者が受けに来るレベルだからね……

 マジで、パニック。

 何をどうしたらいいのか、指導する教員も含めて本当に分からない状態だった。


 というか。

 俺自身、そこまで切羽詰まっていなかった。

 ほとんど就職活動していなかったもので……魔王の攻撃、なんじゃそれ? 

 とりあえず、下級賢者養成国立大学院へステップアップ。

 バイオ系の攻撃魔法を俺は極める!

 などと、入試面接で鼻息荒く息巻いておりました。

 まぁ、2年も大学院にいれば、魔王の攻撃もきっと弱まると思っていたんですけど……甘かった。


 まぁ、この大学院のおかげで、のちの童貞喪失の原因となる男友達とも出会うことができたのだが。




【グダぐだ男の今日のつぶやき】

 時間は二度と戻らない。

 若い時にできることは、その時しておけ。

 失敗しても大丈夫!

 ブレーキ折れたみたいなもんだから! 死にはしない! 笑われるだけ!

 恋愛も同じ! たぶん……




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