第4話 狂戦士の父の後頭部! オイ! ずれてるよ! 

 だが、そのヤンキーの女性が言ってくれた一言は、俺を救ってくれた。

 臭くないよ……

 自分が臭い臭いと思っていたのだが、実は、そんなに臭くないのでないのだろうかと思い出したのだ。

 これは、異性である女性から言ってもらえたことは大きな変化だった。

 ある意味、過去のトラウマが、スッと消えていったような感覚だった。

 そう、それは、まるで、聖女が施す癒し祈りのように、俺にかけられた呪いが溶けたのだった。


 デっ! デ! デ! デデン!

 童貞賢者見習いグダぐだの呪いのトラウマが弱くなった!

 童貞賢者見習いグダぐだの常時発動スキルが弱くなった!

 香り立つ体臭が弱くなった!

 臭い息が弱くなった!

 ……気がした。


 この呪いを解く力、もしかして、あの女性は、ヤンキーに身をやつした聖女様なのではないだろうか?

 今、流行りのヤンキーみたいに喋っていたら追放された。だが、呪いを解除できるのは聖女の私だけ! いまさら戻ってこいと言っても、もう遅い! ってやつか!

 彼女は、彼女なりの物語を持っているのだろう。


 だが、世の中には、病気で体臭がきつい方もいるだろう。

 申し訳ないが、その場合には、お医者さんに相談するしか改善方法が俺には思いつかない。


 しかし、それとは別に多いのが、服の臭いである。

 道具屋で買い物をしている時など、前に並ぶ男から時折、匂ってくる。

 体臭とはちがう、近寄りがたい異質なにおい。

 防御系の魔法か何かだと思いたいのであるが、明らかに違う。

 そう、雑巾が乾いたようなにおいがする奴である。

 これは、男性の冒険者に非常に多い。

 特にパーティを組まずにソロプレーをしている人ではないだろうか。

 寝床ではきっと一人なのだろう。

 おそらく、彼らは、忙しすぎて洗濯物を部屋の中に干しているのではないだろうか。

 風通しの悪いじめっとした部屋の中で干せば、洗濯物についた雑菌が、あっという間に繁殖する。

 そして、その雑菌たちが悪臭を放つのである。

 そう、それはまるで腐った納豆のように。


 だが、これは、自分の努力で何とかできるのである。

 まず、簡単なのは、洗濯物はちゃんと洗って、太陽の光のもとで干すのである。

 これだけで、雑菌の繁殖は抑えられる。

 それができないのなら、乾燥機をしっかりかける。

 それ以外のおしゃれ着は、風通しのいい日陰でちゃんと干すのだ。

 まぁ、これは全て女神さまの受け売りなのであるが……


 あと、妻、もとい、女神さま曰く、男のニオイは頭から発せられるらしい。

 だから、その解決方法としては、毎日、頭をよく洗えということなのだが、ここは女神さまと意見が分かれた。

 女神さまは、頭をよく洗えと言う。

 だが、俺は、洗いすぎは、ハゲると突っぱねた。


 というのも、俺の家系は、ハゲばかりなのである。

 狂戦士である父に至っては、30代後半から禿げ始めていたらしい。

 だが、そんな父も、戦いによって失った頭装備を、かりそめの頭装備に付け替えて、常に戦いに備えている。

 おそらく、何度も、何度も飽きることなく襲ってくるモンスターと懸命に戦っているのだろう。

 そう、それは「失われた希望」と言う名の巨大モンスター。

 かりそめの防具で何とか己を鼓舞しているが、年々、奴の攻撃速度は早まっているようだ。

 日々の戦いの中で父のHPも削られる。ここ最近、なんだか一気に減少したような気がするのは気のせいだろうか。

 その寒々しい頭の継ぎ目を見ているだけでも気の毒だ。

 俺なんか、そんなモンスターと戦っても勝つ気が、全くしない。

 だが、はやりそんなボスクラスのモンスターと戦う父の背中は偉大だ。

 でも、頭装備が、ちょっとずれていることは、内緒にしておこう……


 そのため、俺も幼いころから自分の頭は、モンスターに襲われハゲるものだと思っていた。

 しかし、幸いにも、今時点で、若干、薄くはなっているが……はげてはいない。

 

 そんな俺が日ごろ心がけているのが、モンスターとの戦いの最前線である頭皮と言う名の戦場を保護することである。

 この戦場を俺の思うがままにすれば、地の利はコチラにあるのだ。

 いくらボスクラスのモンスターとはいえ、地形効果を失えば、意外にもろいものである。


 頭皮を傷つける洗いすぎはしない。

 頭皮にある毛穴を詰まらせる油は塗らない。

 毛根を焼き尽くすホットドライヤーなどもってのほか。

 だから俺は、花王の薬用シャンプーのサクセスだけで洗ったうえで、自然乾燥。

 リンス―やコンディショナーなどは全く使わない。その後のヘアーワックスなども論外だ。毛穴の油をせっかくとったのに、そこに油を入れては意味がないというわけである。(あくまでも俺の個人的な見解です!)

 そして、乾くまでは、絶対に何かをかぶったりしてはいけない。蒸れて臭くなってしまう。(これも、あくまでも俺の個人的な見解です!)


 これは、俺が勝手に考えているモンスター対策である。

 他の冒険者やギルドなど、対ボスクラスのモンスター用として、いろいろの戦法や作戦、アイテムなどを編み出している。

 だから、俺自身が編み出したこの作戦が、実際に奴に効果があるのかどうかは知らないが、俺自身はこれで生き抜いているのである。

 遺伝的にハゲないという当たりスキルを引いた可能性もないことはない。

 だが、そんな確証が持てないスキルにすがるよりも、自分が今できることをやった方がいいのである。

 だから、反論を述べられても俺にはどうすることもできないので絶対に言わないように!


 だが、すでにモンスターに蹂躙され、ハゲている人は、もうどうしょうもないじゃないかと言うかもしれない。

 しかし、それは、男自身の考え方なのだ。

 そう、いかに巨大モンスターにコテンパンにやられたとしても、命までは失っていないのである。

 確かに、頭装備はなくなった。

 だがそれだけなのだ。

 そう、先の俺自身が臭いと思い込んでいるように、一部の心無い女性の言葉で、さも、頭装備がなくなったことが悪のように思ってしまっているだけなのかもしれない。


 その証拠に、女神さまに聞いてみた。

「俺が禿げたらどうする?」

「坊主にすれば」

 即答だった……


 要は、ハゲた頭を隠すからみっともないのである。

 ハゲたならハゲたで、堂々としていればいいのである。

 ただ、小汚いハゲはダメである。

 それ相応に整えたハゲでないとダメなのだ。

 そう、モンスターに負けてもいいのだ。

 負けたことが恥ではないのだ!

 相手は、誰も抗うことができない巨大モンスター!

 負けたと思っている心が恥なのである。



 でもね……坊主って、意外と手間かかるの知らないでしょ。



 【グダぐだの今日のつぶやき】

 欠点は隠すな!

 女の嗅覚は敏感だ!

 隠したって、すぐに見つかる。

 ならば、手の内をさらけ出すのも作戦だ!


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