行動記録 8日目 金曜日

賑やかな夕餉

 

 1日休んだらという妻の良子に、美紀ちゃんが首を長くしているよ。

 久しぶりに自見の顔を見て喜ぶ美紀に、土産を渡し、何もなかったと聞くと、美紀は佐藤女史から連絡があったことを話した。

 昨日の今日だから、格別変わったことがある筈はないが、と自見が首を傾げていると、それは真地間の妹のことだった。


 真地間の妹、幸子は録音を聞いてから怒りが収まらず、直接警備隊に行って、パワハラをした7人に抗議したのだ。

 その激しさは誰も止めることが出来ない、一時警備隊は騒然となった。当然管理センター責任者の耳に届き、支社は弁明を求められた。


 しかし無理からぬ、人ひとりが自殺したのだ、それを会社は知らんふりしている。立場を替えて考えて見れば誰もが分かる。

 佐藤女史は、幸子さんはもう待てないでしょう、強行するかもしれない。自見さんは調査でさぞかし疲れていることでしょう、美紀から伝えておいて。

 自見は、美紀に調査の内容を話し、大同会長に進言したことも打ち明けた。美紀もあまりの内容に驚いた。

 そして、自見が高齢なのに、良くそこまで調べ上げたことに、改めて尊敬の念を抱いた。


 大同も出社していた。社長室で、自見の報告内容を説明し、緊急幹部会議を開くことを提議した。社長は、早速明日審議するので、ご足労ですが、会長はその下準備と、それと自見さんも会議に参加するようにと言ってください。

 大同は、その毅然とした態度にはっとさせられた。物足りなく思っていたが、俺の目利き違いかもしれない。これなら、明日の緊急会議は期待が持てる。直ぐこのことを自見に知らせよう。


 大同からそのことを聞いた自見は、真地間の妹の件と、参考人として佐藤女史を参加させたいと言った。大同はそれを承知し、勿論経費は会社が負担すると約束した。

自見は、佐藤女史に連絡した。佐藤女史は本社の迅速な対応に少し驚いていたが、幸子の件もあるので、今日にも行きます、と快諾した。

 また、佐藤女史は幸子も連れて行きたいが、と言うと、自見はそうして下さい、責任は私がとります、ときっぱり返事をした。

 間も無く佐藤女史から、幸子と一緒に行くとの連絡が入った。自見は家で泊まって貰うので、そのつもりで来て下さいと言葉を添えた。

 傍らでそれを聞いていた美紀が、それなら私も愛ちゃんに会いたいので、泊まって良いかと聞くので、じゃ由香ちゃんも連れてきたら、というと、美紀の顔は一層輝いた。

 妻の良子には、今日は賑やかになると伝え、いつもより早めに帰宅すると告げた。


 備品庫係は、左程忙しい仕事ではない。だから、子育て真最中の美紀も融通が利くので、この仕事は喜んでいた。

 3時に東京駅に到着すると佐藤女史からまた連絡があったので、迎えに行くことを伝えた。

 美紀も早めに帰り、由香を学校に迎えに行ったら、直ぐ自見の家に行くと言った。


 午後3時きっかりに東京駅に到着した佐藤女史と真地間の妹をタクシーに乗せ、自宅に向かった。駅では、幸子がこれまでの非礼を詫びたが、それは当然なことです、と笑って答えた。

 玄関で、良子が嬉しそうに待っていた。普段二人暮らしの所に、娘3人と孫までが来る。今日は張り切ってご馳走を作るわ。

 夕餉は賑やかなものとなった。

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