杞憂
妻に、手土産を渡しながら、自見は大同の疲弊した顔が脳裡から離れなかった。自見自身も、これほどとは思っていなかった。だが返って自分が老人だったことが幸いしたのかもしれない。
図師は油断したな、只の爺、脅せば引き下がるだろうと俺を甘く見ていた。図師が報告書を見たら腰を抜かすかもしれないな。
1週間振りの妻を見ながら、多分大同は動かないだろうと思った。自見は
もう大同が昔日の大同ではないことを、疲労困憊した顔から読み取れた。
佐藤女史の協力はもう必要ではないだろう。悪く考えれば、大同会長はこの報告書を闇に葬るかもしれない。
しかしそうなったら、真地間の自殺は犬死となってしまう。それだけはどうしてもあってはならない。大同がもし動かないようなら、妻に頼んで側面から揺さぶるしかないだろう。
幸い妻は日頃から、大同の妻と仲良くしている、この手を使うしかないか。
だが、それは杞憂に終わった。
大同はそこまで衰えてはいなかった。自見が帰ったあと茫然としたが、自見が渾身の力で纏め上げた報告書は傾聴に値する。
大同の独立採算制は十分成果があがった。だが、昨今支社の状況を、会長の立場として冷静に眺めてみると、もうそのメリットはないようだ。今回のような事案を産む温床になっているかもしれない。
やはりこれは放置してはならない。明日、会社に行って、社長に進言し幹部を集めて緊急会議を開こう。そう考えが纏まると、やっと大同は自見の報告書から解放されたような気分になった。
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