後手に回る
自見の報告書を読みながら、事態は大同が考えている以上に深刻だった。それに、自見は支社長と図師は懲戒処分に相当する、パワハラをした7人の処分は事態を大きくするので、これは得策ではない。真地間の家族には十分な補償をする必要がある。そして結論として支社の独立採算制を廃止し、これからの社会情勢の推移を鑑みるに、本社一元管理が望ましいと結んでいる。
詳細な報告書を見ながら、大同は改めて自見の能力を見直した。こんなに能力がありながら、一介の警備課長として黙々と働いてくれた自見の顔をしみじみと眺めた。
しかし、直ぐ答えられるものではない。確かに会長はコンプライアンスに関して調査を指示することは出来るが、処分は社長権限だ。ましてや図師は、自分が見込んで支社に送り込んだ。
3ヶ月前の図師の報告書を疑いながらも、匿名メールが来るまで放置しておいた責任の一端は自分にもある。また、自見に託したのは、自見が自分と図師の関係を十分認識しているだろう、だからそこは斟酌してくれるだろう。
だが、図師は全く自見に協力することもなく、自見をただの老人と見くびっていた。自分と自見の関係を図師に言わなかったが、これも拙かったかもしれない。なにもかも後手に回ってしまった。
思案に沈む大同を自見はじっと見ていた。新幹線の中で、この報告書は大同に衝撃を与えることは分かっていたが、これからの大同警備の将来を考えると、有馬支社長と図師次長の幹部としての責任は重い。
漸く大同が口を開いた。そして、私の一存でどうなるものではない。兎に角一旦これは預かっておく。暫く待ってくれないか。
それ以上は自見がどうこう言うものではない。それじゃ、帰りますという自見に大同は食事をしていかないか、妻も準備しているから。
会長折角ですが、1週間家を空けましたので、用賀に帰ります。そういう自見を、大同は名残押しそうに見た。
大同の妻も残念そうだったが、これを奥様に、と予め準備していた高級な牛肉を手土産として持たせてくれた。
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