感傷
自見には忸怩たる思いがある。柔道仲間の倉石隊員が悩んでいたことを察知できなかったことだ。32歳で入社した時、事業部で柔道大会があった。
自見も、団体戦、個人戦で活躍したが、個人戦では決勝で新卒の倉石君と対戦した。右利きの自見に対し、左利きの倉石選手とは引手争いになったが、一回りも若い倉石選手に先に引手を取られ、左大外刈りで投げ飛ばされた。こんなに、見事に投げられたのは久しぶりで、その時以来彼と親しく話すようになった。
真地間の自殺は、倉石君の悩みを察知できず放置したあの頃の自分と重なった。勿論、真地間と話したことはなく何ら負い目を感じることはないが、30年前の無惨な光景がしきりに脳裡をかすめた。
真地間のお母さんの悲しみは痛いほど分かる。自見も毎年倉石の命日には、倉石家を訪れ位牌に手を合わせてきた。
自見が地方の警備課長として赴任する際、倉石の母親から、自見さん本当に長い間、息子を忘れずに有難うございました。でも、もう充分です、これからは、自見さんは自見さんの道を歩いてください、そして悩んでいる人がいたら、どうぞ親身になって接してください。それが何よりの息子の供養になります。
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