7話 事故。

 ――今日は2020年5月1日金曜日。今日から鞠弥の高校生活が、始まっていく。


 ――まただ。俺はまた、昔の夢を見ている。今回の夢は前に見た夢の続きだろうか?どこか懐かしい夢。


 「お兄ちゃん、お姉ちゃん、一緒に遊びに行こ?」


 「ふふふ。めぐみちゃんは元気だね……」


 「うん!私はいつでも元気だよ」


 「それは、よかった。……ほら竜一、早く行くよ」


 「え⁉俺も?まあ、別にいいけど、外行くなら少し待っていてくれ……」


 そこにいるのは、俺とめぐみ。そして――――



 ――ジリジリジリジリッ!


 いつも通り、スマホのアラームが部屋に鳴り響いた。


 「……ん?もうそんな時間なのか?」


 俺はスマホのアラームを止めて、スマホの時間を見た。


 「ああ、もう6時なのか……。ん?」


 俺は、自分の布団に違和感があったので、体を起こしてみる。――が。


 「あれ?体が動かないんだけど……。もしかして、金縛りってやつか?怖い怖い。誰か助け――――」


 「ふふふ、竜一。少し見ない間に、大きくなったね……」


 俺の布団から、そんな声が聞こえてきた。


 (別に、変な意味じゃないよな……)


 俺は、恐る恐る布団をどかしてみる。すると――――


 「――鞠弥。何しているんだ?」


 俺の布団の中で、鞠弥が寝ていた――とてもかわいい寝顔だった。


 「……ん?ああ、竜一、おはよう」


 「ああ、おはよう。――って、おはようじゃなくて、どうしてお前は、俺のベッドで一緒に寝ているんだ?」


 「ん?ああ、それなら単純な話だ。私が竜一と一緒に寝たかったから。――それだけだ」


 確かに、鞠弥が言ったことは単純な話だった。――でも。


 「いや、俺と一緒に寝たかったから、って言っても、俺は男なんだぞ?もしもそれで、何か間違いでも起こったら、どうするんだよ……」


 「君にそんな度胸は、ないだろ?それに、君は優しいから、寝ている女の子に何かするなんてこと、あるわけがない。――そうだろ?」


 鞠弥が言ったことは、全て事実だった。


 確かに、俺にそんな度胸はない。それに、寝ている女の子に手を出すなんて、俺からしたら有り得ないことだった。


 「ううう。確かに、そうかもしれないけど、俺は恥ずかしいんだよ……」


 「……竜一。私は、そんな君が好きだよ?……やっぱり君は、とても優しいね」


 「そうか、ありがとう」


 「だから、君になら襲われても。――――んんん!」


 俺は、鞠弥の口を塞ぎ、その先を言わせなかった。――そして、俺は忘れていた。そんなことをしている間にも、時間は過ぎ去っていくことを――――


 「お兄ちゃん?起きている?」


 部屋の外から、めぐみの声が聞こえてきた。


 「え?ああ、起きて――――」


 俺は今、自分の身に起きている状況を、再確認した。このままだと、絶対にマズい。


 「いや、起きてない!」


 俺は、そう叫んだ。――が、もう遅かった。


 「お兄ちゃん、噓はダメだよ。――って、お兄ちゃん?何やっているの?」


 「いや、めぐみ!これには訳が……」」


 「ああ、はいはい。大丈夫だから、わかっているから……」


 きっとめぐみは、何もわかっていなかった。それと、なぜ鞠弥はちょっと嬉しそうなんだ?


 「めぐみ、ごめん。これは、鞠弥が――」


 俺は、めぐみを引き留めて、先程起こったことを、全て話した。


 「……なるほど。つまり、お兄ちゃんが朝起きたら、自分のベッドで、いつの間にか鞠弥ちゃんが一緒に寝ていて。――それに、鞠弥ちゃんがおかしなことを言うから、口を塞いでいたところに、私が来た。って、感じ?」


 「そうだ。俺のことを信じてくれ……」


 「別に、信じていないわけじゃないよ?お兄ちゃんに、そんな度胸がないのは知っているし。――だから、お兄ちゃんのこと信じては、いるよ?」


 めぐみは最初から、俺のことを疑ってなんか、いなかったらしい。――なぜ、疑問形なのかは、敢えて聞かなかった。


 (あと、今めぐみが、俺に対して失礼なこと、言わなかったか?)


 「そうか、ありがとう……」


 「うん。それじゃあ、なるべく早く下りてきてね」


 「おう、わかった。……ん?なるべく?なんか、おかしくね?」


 俺は、めぐみの言った言葉に疑問を持ったが、気にせずに鞠弥を連れて階段を下りる。


 「めぐみちゃんには、すまないことをしてしまったな。……後で謝っておこう」


 「ああ、それがいいだろう」


 俺と鞠弥は、洗面所に行き、洗顔などを済ませて、リビングに向かう。


 「もう朝ご飯はできているよ。今日の朝ご飯は、サンドイッチだよ」


 「おお、たまにはパン食っていうのもいいな。では、いただきます。――ぱく」


 俺が食べたサンドイッチは、ミックスサンド。


 「どう?美味しい?」


 「流石、めぐみ。美味しさが天才的だ!」


 「それは、よかった。……でも、美味しさが天才的ってどういうこと?」


 「それはだ、な。めっちゃ美味しいってことだ!」


 めぐみは、俺の言葉に疑問符を浮かべていた。


 「ふむ。めぐみ、このサンドイッチはとても美味しい……」


 「ありがとう、鞠弥ちゃん」


 鞠弥も、めぐみの作るサンドイッチにご満悦のようだ。――ついでに、鞠弥が食べたサンドイッチは、たまごサンド。


 そして、朝ご飯を食べ終えた俺たちは、学校に行く支度を済ませて、家を出る。


 「「行ってきます」」


 俺とめぐみは、声を揃えて言う。


 「……行ってきます」


 俺たちに続いて、鞠弥もそう言った。


 「……そういえば鞠弥。学校行けるようになって、良かったな」


 「そうだね。鞠弥ちゃん、おめでとう」


 俺とめぐみがそう言うと、鞠弥は恥ずかしそうにする。――正直、かわいい。


 「……2人とも、ありがとう」


 鞠弥は恥ずかしそうに、そう言った。


 ――そして、俺たちは早めに学校に到着していた。


 「めぐみ。俺は鞠弥を職員室に連れて行くから、また放課後に……」


 「うん。またね、お兄ちゃん」


 そして、めぐみと別れた俺と鞠弥は、職員室に向かった。


 「じゃあ鞠弥、ここで少し待っていてくれ……」


 「わかった。私は、ここで待っていればいいのだな」


 俺はそう言うと、職員室のドアをノックする。すると――――


 「おお、竜一君。……おや?そっちの子が鞠弥ちゃんかな?」


 職員室から出てきたのは、校長先生だった。


 「あ、はい。今回、鞠弥のお願いを聞いてくれて、ありがとうございます」


 「いやいや、こちらには、断わる理由がないからね。……それにしても、健一郎たちは、まだ旅行中なのかい?」


 「はい、そうですね……」


 俺がそう言うと、校長先生はため息をついた。


 「あの2人は相変わらず、旅行好きなんだね……」


 「父と母は、昔から好きだったんですか?」


 「そうだね。――って、また大切な話を忘れてしまうところだった」


 「そうでした……」


 俺も、話に夢中になって、今回の内容を忘れそうだった。


 「それじゃあ、鞠弥ちゃん。担任の先生に挨拶しに行こうか」


 「はい、わかりました……」


 「じゃあ、鞠弥。また後でな……」


 「うん、竜一。また後で。……ふふふ」


 最後に鞠弥は、笑っていた。あれは、どういう意味だったのだろうか?そんなことを考えていると、いつの間にか俺は、教室の前まで来ていた。


 「みんな、おはよう。……やあ琴音、おはよう」


 「お、おはよう、竜一……」


 琴音はきっと、嬉しかったのか、恥ずかしかったのだろう。俺の顔を見た瞬間に、顔を赤くして、そっぽを向いた。


 俺は、こういう人を見るとつい、からかいたくなってしまう。


 「おい、琴音。なんでそっち向いちゃうんだよ」


 「別にいいでしょ?」


 「そっか、俺のこと嫌いなんだな……」


 「そ、そんなことない!あたしは、あんたのこと――――っ⁉」


 ――時すでに遅しとは、このことを言うのだろう。


 「なっ⁉お前、まさか俺のこと――」


 それを言ったのは間違いだったと、この後の俺はとても後悔する。


 「ううう、竜一の、馬鹿ぁぁぁぁぁ!」


 「ぐへッ!」


 俺は、琴音に殴られ。――――そして、意識は消滅していった。


 「――あ、竜一ぃぃぃぃぃ!」


        ◆


 ――俺は最近、似たような夢を見る。懐かしくて、温かい夢。


 「竜一、大丈夫かい?」


 「うん。少し転んだだけだから……」


 「そうか。……ああ、ここ怪我しているね。少し待っていてくれ。」


 「ありがとう、姉ちゃん……」


 「ふふふ。それにしても、竜一は少し強くなったね。私は嬉しいよ……」


 俺は、この人を姉ちゃんと言っている。でも、俺たちには――――――

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