第26話 偽りの日々にさようならを -04-
やけにざわざわとした騒ぎ声と、金属の擦れる音が私の耳に聞こえてきた。
あの時も、クローゼットの中からこの音を聞いたな、と私は耳を澄ませる。
やっぱり来てくれた。
必ず来てくれる。どこに隠れていたって絶対に私を探し出してくれると、私は信じていた。
絶望の闇の中にいたあの時に見つけてくれたのだから、今回も、と。
「ソフィアお姉ちゃん……」
メルが不安そうな表情で私に近づいてくる。
私は優しく微笑みながらメルの両手を握り締め、メルに向き合った。
「メル、もう少しで迎えにきてくれるよ。一緒に行こう。外はとても明るくて、色とりどりの世界が広がって、とてもきれいなんだよ」
「ソフィアお姉ちゃんには、やっぱり大切な騎士様ができたんだね。メルは……」
メルは唇をぐっと噛み締める。そんなメルを私はぎゅっと抱きしめた。
「うん、そうだね。とっても大切な人だよ。でも、それはメルも同じ、もちろんテオも。今もとっても大切な私の家族だよ。だからこそ、いつまでも閉じこもっていちゃいけないの。みんなで幸せにならなきゃ」
「うん、わかった。ソフィアお姉ちゃんを信じる!」
そして、あの人の声が聞こえてきた……
「ソフィア、ここか!?」
「はい! アラン様!!」
ドア越しに聞こえるアラン様の声に、私はすぐに返事をした。
今すぐこのドアを開けて会いたいという気持ちがはやるけれど、外から鍵がかかっていて開かない。
「今、鍵を開けるから」
アラン様はそう言うと、カチャカチャと音を鳴らし、そしてカチャっという音とともに、私たちを阻むドアを開けた。
「すごいです……」
「これくらい簡単だよ。その子は?」
私が無事だったことに安堵の表情を浮かべてくれたアラン様は、私の後ろに隠れていたメルに視線を送った。
「メル、大丈夫だよ。この人は……」
全てを言い終える前に、警戒心の強いメルが笑った。
「ソフィアお姉ちゃんを助けてくれる?」
「ああ、約束をしよう。もちろん、君のこともだ。さあ、行くぞ」
「アラン様、テオは?」
「今、探している。きっとすぐに組織の奴らも来る。その前にソフィアたちだけでも逃げろ。大丈夫だ。テオドールはソフィアたちの家族だろ? 必ず生きてるよ」
私はこくりと頷き、そしてアラン様とメルとともに走り出した。
屋敷の外までもう少し、というところで、
----ドッカァァァァン
爆発が起きた。孤児院での爆発とは比べものにならないほどの威力の爆発が。
「来るのが早いな、口封……」
アラン様は言葉を止めた。きっと直ぐ隣に私がいるからだ。けれど、その言葉に続くだろう言葉くらい私にも想像はつく。
口封じのための爆発。裏切り者のテオを殺すために。
私はぐっと唇を噛み締める。きっとテオは生きている。この前だって、死んだと思っていたのに現れたのだから。
「早く逃げるぞ、ここもすぐに崩れる」
外への出口はすぐ目の前。だけど足元にはすでに瓦礫の欠片が散乱していた。
「メル、大丈夫?」
「うんっ」
私はメルの手を引いて走った。
自分のことで精いっぱいだったけれど、メルと繋がれたこの手だけは離しちゃいけない。
懸命に走るメルは、崩れはじめた天井から落ちた瓦礫の欠片に躓き、転んでしまった。
「あっ……」
私は直ぐには止まれず、絶対に離しちゃいけないと思っていた手が、メルと繋がれていた手が離れてしまった。
そして……
「メル、逃げてーーー!!」
私の叫び声と同時に、一瞬にして私の目の前は瓦礫の山となった。そこは、先ほどまで、メルがいた場所……
なのに、メルは今、私の腕の中いる。
テオに放り投げられ、宙を舞って、私の腕の中に飛び込んできたから。
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