04話.[そんなものだろ]

 毎時間というわけではないが桃菜が特定の男子と行動し始めた。

 そんなのは桃菜の自由だからとやかく言うつもりはない、ないが、こんなことは初めてなので困惑している自分が確かにそこにいて。

 しかも凄く楽しそうなんだよなこれが。

 美弥や真衣といるときと同じぐらい、下手をすると俺といるときよりも更にって感じで俺の中で目立つ。

 俺はあのとき真衣の気持ちが分かった気がした。

 露骨に差を見せられると複雑というかむかつくというか。

 ただまあ、そこで気持ちが悪い奴の思考だと分かったので、それ以上考えることはやめた。


「あんなことを言っておきながら真衣は来ねえし」


 どっちともいられないとなると俺はぼっちになってしまうわけで。

 だからといって、男子と仲良くしている桃菜のところには行きづらいし、仮にグループの人間達といるときでも行きづらいしで難しい状態で。


「戻るか」


 違う、最近の真衣がおかしかっただけなんだ。

 そして俺がほぼひとり状態というのは前から変わらない。

 それが当たり前なら割り切ることができる。

 学校は勉強をするところだからとか言い訳をしてな。

 結局、授業を真面目に受けて、提出物をちゃんと提出して、テストである程度の点数を叩き出しておけば文句を言われることなんてないのだ。

 そういうことで放課後になったら速攻で家に帰って勉強をした。

 明日はテストだからやるしかないからしょうがない。

 で、俺にしては結構な時間の間、テスト勉強をしていたのだが。


「帰ってこねえな」


 もう19時を過ぎているのに美弥が帰ってこない。

 この前も考えたが、こういうときのために携帯は持たせていた方がいいという気がする。

 でも、それにばかり意識を割いて他のことが疎かになるなどといったデメリットが存在しているわけで、そういうのもあって親に相談して契約してもらうということをしてもらっていないわけだが……。

 一応、下に移動して確認してみたものの、どこにも妹はおらず。

 外に出て美弥が帰ってくるルートを探してみたものの、そこでも見つからず。


「あ、桃菜か?」

「うん、桃菜だよー、どうしたの?」

「美弥が帰ってこなくてさ」

「えっ、こんな時間にっ?」

「そうなんだよ、17時とか18時だったらまだいいんだけどさ……」


 すれ違う可能性が高いから家の前に戻ったが帰ってこない。


「たっちゃん!」

「まだ帰ってこないんだよ、家の中にもいない」

「どうしたんだろう……」


 桃菜には家の中にいてもらって俺はまた探し始めた。

 だが、そんなので見つかるなら苦労はしないよなという話で、二十時半頃に家に戻って床に寝転ぶ。


「真衣ちゃんも知らないって」

「ああ」


 友達の家に泊まっているのなら別にいいのだが。

 こんなんじゃテストどころじゃねえぞ。


「桃菜、送るからもう帰れよ」

「うん……いてもなにができるってわけじゃないもんね」

「悪いな、来てくれてありがたかったぜ」


 桃菜を送って家に帰ってきた。

 調理をする気にもなれなくてリビングの床に寝転んでいたわけだが、


「た、ただいま」


 諦めていただけだが、そのタイミングで美弥が帰ってきた。


「ただいまじゃねえよ……」 

「うぅ、お兄ちゃんっ」


 こっちに抱きついてきて泣いているが、泣きたいのは情けないことに俺だった。

 その小さな体を抱き寄せて「帰ってきてくれて嬉しいぞ」と、もちろんすぐに離したけどな。


「え、探してた?」

「うん……お兄ちゃんが買ってくれたストラップが取れてて……」

「そんなのいいだろ、もう売ってない物というわけじゃないんだから」

「でも、大切だったから」


 何度も小学校から少し歩いたところまで探していたらしい。

 だったら小学校まで行けばよかった、帰り道の自宅側の方しか探さなかったのは馬鹿だとしか言えない。


「とりあえず、今度からはもうそんなことはやめろよ?」

「うん、怖かったから……」

「当たり前だろ、あ、いまからご飯を作るから待ってろ」

「先におふろに入ってきてもいい?」

「おう、行ってこい、まだ溜めてないからあれだけどな」


 桃菜に帰ってきたことを連絡してから今日は本当に簡単なものを作って出てきた美弥と一緒に食べた。


「お兄ちゃん……」

「はは、甘えん坊かよ」

「すぐに帰ればよかったってこうかいしてる」

「これからは守ってくれればいい、ストラップはまた買ってやるからさ」

「うん……」


 あんな先にちょろっと猫がついている物を必死に探していたとか可愛い存在だ。

 でも、なにかのトラブルに巻き込まれることもあるからしっかり言っておかなければならないんだ。

 感情的になったところで相手を怯えさせるだけだから静かにゆっくりとが最適だ。


「これからは気をつける」

「おう、さ、そろそろ寝る準備をしないとな」

「お兄ちゃんとねたい」

「じゃあ先に部屋に行っていてくれ」

「うん」


 テスト勉強はテスト週間になってから一応していたわけだしいいだろう。

 赤点なんて取ったこともないから大丈夫大丈夫。


「さ、やらなければならないことをやるか」


 いまの俺にとってはそっちの方が優先されることだった。




「ぐぇ……ちょ、ちょっと待て」


 なんでテストも終わって冬休みまであともう少しだってところで俺は首を絞められているのか、しかもこいつの手が凄く冷たいせいで色々なものが削られていく始末。

 彼女はこちらの首から手を離してにっこりと微笑んでくれた。

 なんだ? と困惑していると「テストはどうだったの?」と聞いてくる。

 考えたくもないがそのためにいまのをしたんだろうか?

 ……ヤンデレかよと内で突っ込んだ。


「おぇ、ふぅ、あくまで普通だったぞ」

「それなら赤点はなかったのね、よかったじゃない」

「ああ、首を絞めてくれなければもっとよかったな、もっと言えば真衣が来てくれていたらもっとよかったけどな」

「クラスメイトの子に勝負を仕掛けられていたのよ、負けられないから休み時間なども全て勉強に捧げたの、その甲斐もあって勝つことができてよかったわ」


 わざわざ乗ってやるなんて珍しいことをするものだ。


「それで桃菜は?」

「男子といることが増えてな」

「へえ、ふふ、それだとあなたはひとりぼっちね」


 事実その通りだからなにも言えない。

 仮になにかを言ったところで強がりだとか言われて終わるだけだから諦めていた。

 俺は彼女のことを大雑把にではあるが知っている。

 大体はこちらが押されて終わるだけだから諦めることも必要だった。


「それなら行ってくるわ」

「邪魔してやるなよ」

「邪魔をするわけじゃないわよ、友達として確認するだけ」


 まあいいや、俺はもう帰ろう。

 せっかく半日で終わっているのに学校に残る必要もない。

 寧ろ、帰っていい状況になったらすぐに帰るべきだろう。


「ふっ、好き好んで居残るなんて物好きなやつらだ」


 桃菜のグループは全員残っていた。

 桃菜の横には必ずあの男子がいる。

 やたらと距離が近くて、もう少しがっつくのはやめようやとツッコミたくなることも少なくはない。

 仮に下心があったとしても上手く隠せなければ駄目なのだ。

 その点についてだけは俺も偉そうに言うことができる。

 俺なんかずっと一緒にいても下心なんて全く抱かなかったからだ。

 あの整っている男子君も見習った方がいいな。


「なに先に帰っているのよ」

「……す、すぐに手が出る癖、直した方がいいぞ」

「あら、あなた限定だからいいのよ」


 そんな限定いらねえ……。

 またこちらの首を頑張って絞めようとしてくる彼女の腕を掴んでそのまま歩き始めた。

 首を絞めるために背伸びをして努力をしなくていい。


「分かったわ、あの子はあの男の子と仲がいいということが」

「だろうな、中学時代から一緒にいる人間だから告白されたら受け入れるだろうな」

「どういうこと?」


 真衣には言っていなかったのか。

 んー、たまにふたりが仲がいいのかどうか不安になるときがある。

 もっとも、真衣は俺のときと違って滅茶苦茶柔らかい態度で接するんだがな。


「三年以上付き合いがある人間からの告白しか受け入れないんだってさ、その点、あの男子君は三年以上の付き合いがあるから条件を満たしているわけだからさ」

「なるほど、あなたが告白した場合よりも可能性があるということね」


 そりゃそうだろう。

 俺達はあくまで幼馴染的な関係というだけ。

 幼馴染同士で付き合って結婚する人間達もいるだろうが、そんなのは稀有だ。

 大体は異性として見られないとか(ネット談)そういうので終わること。

 ま、お互いに好き同士で付き合ったということならおめでとうと言ってやろう。


「私、あの男の子は好きになれないわ」

「ほう、なんでだ?」


 俺的にはチャラいとは思えなかった。

 下ネタを言って笑いを取ろうとするわけでもないし、授業中だって静かにやっているし、なにより桃菜が一緒にいるときは楽しそうにしているから。

 昔、「派手な人は嫌い」と桃菜は言っていたため、いま一緒にいるということはあの男子はそれには該当しないということだからな。


「いきなり現れたくせに桃菜を奪おうとするじゃない」

「恋愛なんてそんなものだろ、そっとしておいてやれ」

「なによ、そうやって言い聞かせているだけのくせに」


 なにを勘違いしているのかは分からないがいつものところで別れた。

 誰が誰を好きになろうが自由だ。

 あまりにも酷え奴だったら止めるものの、あの男子だったらまあ問題もない。

 関係のない俺らにできることは見ていることだけ。

 本来は口出しとかだってするべきじゃないんだ。


「ただいま」


 ただ、一応俺も友達なんだから相手をしてほしいというのが正直なところ。

 なんとなく寂しいのは確かだった。




「この前もそうだったけれど、あなたは約束の時間よりも早く来て偉いわね」

「まあ、これぐらいはな」

「言い方を変えるわ、ひとりで早く来られて偉いでちゅね~」

「行こうぜ、今日はとことん付き合ってやるからさ」


 いちいちそんなことで乱したりはしない。

 このようにある程度の余裕がないと駄目なのだ。

 余裕がなければ真衣の相手なんかできない。

 あっという間に疲弊して家に帰ることになるからだ。

 だからこれは彼女のためでもあった。


「服を見るのが好きだな」

「すぐに新しい物が並んだりするから」

「やっぱり気になるんだな」

「一応、私も女だもの。でも、これは男の子も変わらないと思うわ、だからあなたも少しは興味を持ちなさい」

「残念ながら興味がないんだよな、着られればそれでいいんだよ」


 すぐに新しい服を買ったりなんかしたら前のやつが勿体ないだろ。

 気に入ったから買うわけだし、どうしても最新の物ばかりでサイクルしそうだ。

 その点、俺みたいに着られなくなるまで着るというスタイルなら愛着も湧くし、大切にしようとも考える。

 押し付けるつもりはないからあちらから押し付けるようなこともやめてほしかった。


「次は雑貨屋か、女子みたいだな」

「私も女よ、胸だってあるわ」

「桃菜の方が大きいけどな」


 胸のことについて触れるのはやめようと決めた。

 それからもいかにも女子って感じのチョイスでなんか微笑ましかった。


「つか、欲しい物ってなんなんだ?」

「あなたの時間よ」

「嘘だな」

「ふふ、ええ、嘘だけれど」


 俺らはまた商業施設に来ている。

 ここは色々な店舗が並んでいるからなにが欲しいのかを絞ることができない。

 まあどうせ後で分かるんだから考える必要はないのかもしれないが、この前があんな中途半端な状態で終わっていたのもあって気になるのは確かだった。


「これが欲しかったのよ」

「あっさりとばらすんだな」

「隠しても意味がないもの」


 イヤホンが欲しかったのか。

 気になるのは千や三千というレベルの物ではなく諭吉超えの物を彼女が見ているということだろうか。

 意外と音質に拘るタイプなのかもしれない。


「これね、フィット感も丁度いいし、なにより可愛いわ」

「か、可愛いか? 値段も強気過ぎて可愛くないんだが……」

「このよさが分からないなんてあなたも子どもね」


 二万円の物をぽんと買いやがったっ。

 音質とか品質とかどうでもいい自分にとっては驚くこと。

 食材だって質より量とかで安価で多い物を買うというのに。


「目的は達成できたわ、帰りましょう」

「そうか、ならそうするか」


 この人の多さだと流石に鬱陶しくなってくるから帰れるなら嬉しい。

 今回は真衣のしたいことにも付き合ってやれたことだから不満もないし。


「そういえばこの前のことだけれど」

「あ、美弥が帰ってこなかった日のことか」

「ええ、どうやって接したの?」

「怒鳴ったりはしなかったぞ」

「そうなのね、あなたはそうすると思ったけれど」


 それじゃあ届かないから駄目だ。

 堪えさせたいわけではないが、静かにゆっくりとの方が効くらしいし。


「どうせ真衣の中で俺は乱暴キャラだよ」

「あら、そんなことは言っていないじゃない、あなたにだっていいところはあるわ」

「ほう、どこだ?」

「美弥ちゃんに優しいところよ、私には厳しいけれど」


 わざわざ別の日に付き合ってやっているのに厳しいってそりゃ厳しいな。


「荷物も持ってくれないものね、荷物持ちとして来てくれているはずなのに」

「いや、二万もする物を持つのは無理だ」

「ふふ、臆病ね」


 仮に自分が購入した物であっても運搬をする際に緊張すると思う。

 つか、そんな高額な商品を買うことがないのだから気にするだけ無駄だが。


「でも、こうして付き合ってくれるところは好きかもしれないわ」

「好きなんて気軽に言うな」

「あくまで友達としてよ?」

「それでもだ、男子を勘違いさせたいのなら止めないけどな」


 いつものところで足を止める。

 彼女もまた、数歩歩いてから足を止めた。


「じゃあまたな」

「あなたってそういうところがあるわよね」

「家に来たいのか? 美弥なら――」

「美弥ちゃんに――」

「今日は遊びに行っているからいないぞ」


 お互いに相手のそれを遮って馬鹿なことをしていた。

 待たないからそういうことになるんだぞと俺は言いたい。


「美弥ちゃんがいないのならあなたの家に行く理由がないわ」

「そうか、それじゃあな」

「ええ、また冬休み後に」

「まだ冬休みにすらなっていないんだがな……」


 でもまあ、彼女なら実際にそうなりかねないか。

 今年はひとりでクリスマスを過ごすことになりそうだと内で呟きつつ帰ったのだった。




「休みだからって羽目を外しすぎないようにな」


 といういつも通りのやつで締められた。

 これが終われば帰れるという状況で、物好きな人間が沢山いた。

 その人間達はクリスマスだなんだと盛り上がっていた。

 まあしょうがない、責められることではない。


「今日がクリスマスだしな」


 俺はそんな中、ひとり寂しく教室をあとにした。

 帰路の最中も同じ、誰かが来てくれるなんてことにもならない。

 家に着いても同じ、何故なら美弥はそのまま友達の家で過ごすそうだから。


「ふっ、クリスマスに誰かと一緒に盛り上がろうとするのなんてガキのすることだ」


 本来はキリスト云々とひとりぶつぶつ呟き、誰にも負けないぼっちさを証明していた。


「お、久しぶりだな」

「元気だった?」

「おう、そっちは? 父さんは倒れたりしてないか?」

「そうだね、私がご飯を作ってるから大丈夫だよ」


 せめて美弥が中学生になってから家を出ろよ、なんてことを考えたことは一度や二度だけではなかった。

 そもそも男の俺に、雑にしかできない俺に任せるのは間違っていると何度も言ったのだが聞いてはくれなかった。

 それでも色々と調べて覚えて、いまはある程度できるようになったと思う。

 俺が怠けると本格的にやばくなるから頑張れた、というか、見返りなんか求めている場合ではなかったのだ。


「美弥ちゃんは元気?」

「おう、今日は友達の家でクリスマスパーチィだってさ」

「おお! あれ、それじゃあたっちゃんはひとり、おぅ……」


 把握されていないだけでひとりで過ごす人間なんて沢山いると思うんだ。

 仕事の人もいるだろうし、別にこんな過ごし方はあくまで普通だ。


「いいんだよ、それでどうして電話をかけてきたんだ?」

「あ、元気かなーって気になっただけだよ――あ、もう行かなくちゃ、それじゃあまたねー」

「おう、またな」


 どうせなら美弥に聞かせてやりたかったな。

 少しお喋りができれば寂しさも多少はマシになるだろうから。

 母さんと父さんが大好きだったからな、いまのこれにはどう思っているのか。


「食べ物でも買いに行くか」


 なんだかんだ言いつつもなにかを調理してひとり寂しく食べるというのもアレだから財布を持って家を出た。

 別にイルミネーションでキラキラしているというわけでもないのに(昼だから当然)眩しい気がする。

 早めに終わった学生なんかも歩いていて、どうせ彼女とか仲のいい人間と過ごすんだろうなってマイナス寄りな思考をしていた。

 んで、買ったのはピザ、照り焼きチキン、サラダ、ショートケーキという風になっている。

 どれも小さいから食べきれないということはないだろうし、寂しさのあまり途中でやめたくなるかもしれないが、そういうことは気にせずに持って帰ることに。


「にしても桃菜も酷えよな」


 今朝、唐突に「グループのみんなと過ごすから会えない」なんて言ってきてな。

 元々期待なんかしていないのに勝手に期待している風に捉えられることほど虚しいことはないなと言いたくなる。

 残酷だぜあいつはよ。


「美味しそうだな」


 今日も半日で終わったのもあって昼食はまだだ。

 その状況でもう食べられる物がこんなに揃っている。

 夜に食べる用だろとツッコむ自分もいるが、どうせ先か後の違いだろと本能が囁いてくるから気をつけなければならない。


「す、少しだけ食べよう、必要な分だけ温めてな」


 改めて考えなくてもこれが失敗で。

 一時間後には全てを食した俺がいたのだった。

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