第63話「冒険者ギルド訪問②」

 シモン一行が訪れた冒険者ギルド、グラン・シャリオ支部。

 現在の時刻は面会約束の時間、午前11時まで、あと15分ほどだ。


 ギルドの建物は王国復興開拓省と同じ5階建て、1階は広大なフロアである。

 シモンが正面を見やれば、大きな受け付けが置かれている。

 

 フロアの向かって右手には、巨大なカウンターがあり、両隣に仕切りがある窓口がいくつも設置されていた。

 この窓口で冒険者は、依頼申し込みと報告を行うのだ。


 依頼と報告の兼ね合いから、窓口が混むのは朝早くと夕方遅めである。

 それゆえ、現在は閑散としていた。


「次官補、では私が受け付けへ、ギルドマスター訪問の手続きをして参ります」


 レナの秘書セリア・ベルが受け付けブースに向かい、スタッフの女子へ声をかけた。

 ひと言、ふた言、言葉を交わす。

 対して、スタッフ女子から何やら言葉が返される。


 大きく頷いたセリアは、シモン達の方へ振り向き、小さく頷いた。

 セリアの表情は明るい。

 どうやらすぐに『迎え』が来るようだ。


 シモン達は受け付けへ近付き、セリアと合流した。

 何となくシモンは、受け付けのスタッフ女子へ軽く会釈をする。


 対して、スタッフ女子も笑顔で会釈をした。

 

 大丈夫。

 全然「どきどき」しない。

 エステルと一緒に居て、良く話す事で、シモンの女子が苦手という弱点はだいぶ緩和されたようである。


 やがて……

 革鎧に身を固めたひとりの中年男性がやって来た。

 栗毛で短髪、背はそんなに高くない。

 体格はがっちりしていた。

 レナがすかさず言う。


「ふむ、彼はサブマスターのジョゼフ・オーバンだ。地属性ランクAの魔法剣士だな」


「地属性?」


「うむ、防御系の魔法を得手としている。我々の業務に助力してくれると助かるな」


「成る程」


 レナの発した言葉の意味をシモンは考えてみた。

 地属性の防御魔法……すぐにピンと来た。


「皆様、良くいらっしいました。マスターがお待ちです。どうぞお上がりください。ギルドマスター室は5階ですから」


 最も上席の者は、最上階に陣取りたがるのだろうか?

 シモンは、そのような事を考えながら、ジョゼフの後について歩き、魔導昇降機へ乗り込んだのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「エレン、久しぶりだな。そして皆さん、良くいらっしゃいました」


 執務をしていたらしいギルドマスターのバジル・クストーが、立ち上がって一礼する。

 バジルは、金髪碧眼の偉丈夫だ。

 クラウディアの父、アンドリュー・ラクルテル公爵をひとまわり小さくしたような体格である。


「エレン、アレクサンドラ・ブランジェ伯爵はお元気かな?」


「はい、相変わらず多忙ですが、元気ですよ」


「ふむ、伯爵から、王国復興開拓省の構想をお聞きした時は、どうなる事かと思ったが……何とか、発進出来たようだ。ま、素人なりに良くやっていると思うよ」


 バジルは少々上から目線のようだ。

 マクシミリアン殿下直属の役所とはいえ、まだ新設したばかりの省。

 対して、冒険者ギルドは数百年の歴史を誇るからだ。


 アレクサンドラを『素人』だと、さげすまれ……

 レナは、むっとしたようだ。

 シモンに怒りの波動が伝わって来る。

 

 だが、シモンも同じ思いだ。

 自分がいろいろ言われるのはまだ良い。

 でもアレクサンドラが軽く見られ、王国復興開拓省が下に見られるのは宜しくない。


 当然、レナは反撃する。


「まあ、組織は量より、質ですから」


 今度はレナの言葉にバジルが反応した。

 眉間にしわを寄せる。


「ほう、量より質か、エレン、それはどういう意味かね?」


「言葉通りです。先日赴任したウチのシモン・アーシュ局長は私など遠く及ばない逸材ですわ」


「え? レナさん、ちょっと!」


 レナは冒険者時代は、ランクAの実力者だと聞いている。

 そのレナが「自分が遠く及ばない」と言うのだ。

 となれば、シモンはランクSか、それに近い能力を持つという例えである。


 いきなり持ち上げられ、驚いたシモンが声をあげるが、レナは華麗にスルー。

 嫣然えんぜんと微笑んだ。


 一方のバジルは、訝し気な眼差しをシモンへ向ける。


「何? この彼が逸材?」


「はい、次官や私同様にウチの長官が直々にスカウトした大器ですから」


「大器? それは言いすぎだろう? 大袈裟だ」


「いいえ、私と次官が目の前で彼の戦いぶりを見ましたから、間違いないですわ」


「ふうむ……トレジャーハンターとしてシモン・アーシュ君の名は聞いた事があるが……そこまでとは、にわかには信じがたい」


「あら、マスターは、私が嘘をついているとでも? 私の性格は良くご存じのはずでしょう?」


「むむむ」


「ウチのシモンは、オーク30体をたった10分で倒しましたよ」


「な、な、何ぃ!?」


「うふふ、それどころか、翌日オークどもの巣穴に単身飛び込み、残りの60体を約1時間で完全に殲滅しました。私と次官が確かめましたし、公文書に記録も残っています。いかが?」


「むむむむむ!」


 驚き唸るバジル。


 ここで、手を挙げ、発言を求めたのが、サブマスターのジョゼフである。


「マスター、口論していてもらちがあかないですよ。歴戦の『つわもの』が集うギルドと、単なる役所の実力差をはっきりと見せてやりましょうよ」


「どういう事だ?」


「はい、ここは模擬戦で決着を付けるのはどうでしょう?」


「おお、模擬戦か」


「はい、俺がシモンさんと戦います。試合用の雷撃剣を使用したポイント戦を行いましょう。先に3発ヒットさせた方を勝ちとするのです」


「おお、ジョゼフ、そうか! 名案だな」


「はい!」


 と、今度はシモンが手を挙げる。


「いやいや、普通に模擬戦を行うだけではつまらないです」


「どういう事だね? シモン君」


「はい、マスター、負けた方が勝った方の組織へ出向して、しばらくタダ働きするのはいかがでしょう?」


「うふふ、私はシモン君に賛成! 1年間タダ働きってどうかしら?」


「次官補! 局長!」


 エステルが驚き、はらはらする中、シモンは落ち着き払っている。


「俺はレナさんの提案でOKです。マスター、サブマスター、いかがでしょう?」


 シモンはそう言い、バジルとジョゼフを見据えたのである。

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