第64話「冒険者ギルド訪問③」

 冒険者ギルドの広大な敷地内には、大規模な闘技場がある。

 公式な試合、イベント、そして訓練にも使用される。

 観客席やロッカー、シャワー、トイレ等も備えつけられていた。


 その闘技場のフィールド上で、王国復興開拓省の局長シモン・アーシュと冒険者ギルド、グラン・シャリオ支部サブマスター、ジョゼフ・オーバンが向かい合っている。


 観客席からは、次官補のレナと、秘書のふたりエステル、セリアがじっと見守っていた。


 このような形となったが、シモンは臆してはいない。

 マスターのバジル・クストーとジョゼフ・オーバンに関し、シモンは事前にエステルが用意した資料に目を通し、下調べをしてあった。

 経緯はともかく、自分の実力を試合形式で見せるような展開になる事も、充分想定していたからだ。


 シモンは記憶をたぐる。

 ジョゼフはティーグル王国が正式採用した剣技の道場で修業を積み、免許皆伝の腕前だという。

 そして魔法は地属性の攻防魔法が得意らしい。


 果たして、ジョゼフはどのような戦法を取るのか、シモンは考えてみた。

 今回はジョゼフから試合形式を指定して来た。

 雷撃剣を使ったポイント制で勝敗を競う形だ。


 で、あれば岩石を飛ばす『岩弾ロックブリッツ』、足元をゆかるみにし自由を奪う『大地の束縛』そして侵入、接近を阻む『地の壁ロックウォール』を使って来る可能性は低い。


 ジョゼフは言った。

 歴戦の『つわもの』が集うギルドと、単なる役所の実力差を見せつけようと。


 そもそもジョゼフが試合を行う事を言い出したのは、態度を含め、マスター同様、シモンを舐めている節がある。

 魔法を使うのは、ジョゼフが追い詰められた上で最後の手段だろう。


 そして、この模擬試合の審判兼立会人は、ギルドマスターのバジルだ。

 『判定』になったら、身内に贔屓ひいきする可能性もある。

 ジョゼフへKOに近いダメージを与えるか、逆に相手が言った通り、はっきりと実力差を見せつける。


 これで、シモンの戦法は決まった。

 こちらも攻防の魔法は使わない。

 身体強化の魔法だけで、能力を高め、剣技と格闘で一気に片を付けるのだ。


「マスター、ひとつ」


「ははは、シモン君、臆したか? 今なら土下座して謝罪すれば、試合を中止にしてやっても構わんぞ」


「いえ、土下座などしません。だったらふたつ」


「何? ふたつだと?」


「はい、ひとつは俺が勝ったら、しっかりと謝罪して貰います。マスター、貴方はウチの長官を軽んじた」


「何? 軽んじただと?」


「そうです。素人などと仰いました。俺は絶対に許せませんね」


「な、何!」


「もうひとつ。俺の剣技は実戦に即した我流です。格闘技も使いますが、許容してください」


「ああ、全然構わん! どうあがいても、ジョゼフにぶっ飛ばされるのだ。この試合でついでにランク判定もしてやろう。お前を冒険者登録し、徹底的にタダ働きさせてやる!」


 バジルは、シモンをにらみつけ、憎々し気に言い放ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ウォーミングアップをした後……

 シモンとジョゼフは10mほど離れて向かい合う。


「開始!」


 バジルの声がかかった時。

 シモンは一気に身体強化の魔法を発動した。


 同時に地を蹴り、ジョゼフへ迫る!

 ジョゼフは呆気に取られている。


 シモンの身体がぶれたようになり、消えたからだ。

 瞬間!


 ばりばりっ!

 どがううっ!


 雷撃が轟く音と肉を打つ重い音が響いた。


「ぎゃう!!」


はたから見れば、試合開始と同時にシモンが消え、ジョゼフが短い悲鳴をあげ、倒れたようにしか見えない。


 そして、気が付けば、シモンが気を失ったジョゼフの襟首えりくびをつかんで立っていた。

 シモンはジョゼフへ雷撃を3発入れ、勝利を確定させた上、当て身を喰らわせたのだ。


 まさに瞬殺、そして3秒もかからない圧勝である。


 ちなみに、これでもまだ、シモンは『持てる力の1割弱くらい』しか出していなかった。


 驚きのあまり、口をぱくぱくさせ……

 呆然としているバジルへ、シモンは言う。


「マスター、どうします? こうなると試合続行は困難だと思いますが」


「な、なななななな~~~っ!!??」


「ご安心を。ジョゼフさんは気を失っているだけです。俺の治癒魔法で回復させますから」


「う、ううう……」


「ご不満ならば、マスター、貴方と試合しても構いません。但し!」


 シモンが「びしっ!」と言うと、バジルは「びくっ」と身体を震わせる。


「ひ、ひいいい」


「もう少しだけ……本気を出しますよ。その結果、もしも手違いがあったら、ご容赦くださいね」


「う、うわあああああっ!!」


 悲鳴をあげ、逃げ腰になるバジルへ、シモンは柔らかく微笑んだのである。

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