第28話「久々。ひと時の休日①」
シモンが王国復興開拓省の職員として正式契約した翌日は……
日曜日であった……
あれ?という感じで拍子抜けしたシモンは自宅でひとり苦笑した。
ダークサイドなコルボー商会に散々こき使われ、曜日の感覚が完全に欠落している。
本当は……
久々に故郷へ帰りたかった。
帰省して、母に親孝行がしたかった。
しかし、シモンの故郷はティーグル王国王都グラン・シャリオから馬車で片道約1週間かかる。
往復するだけで都合2週間も時間を要してしまう。
たっぷり親孝行するのなら、1か月近く休みがないと到底無理なのだ。
だから夏季か、年末に長期休暇を貰う事が叶ったら……
帰省しようと決めた。
アレクサンドラの考えを聞いているシモンは、帰省の為、長期休暇を貰おうと、更に張り切ったのはいうまでもなかった。
という事で……
シモン・アーシュは社会人になって以来、ひさびさにのんびりし、王都の街中へ出ていた。
いつも着ていた年季の入った革鎧から気分を一新する為、セカンドハンド、すなわち中古なのだが、買ったばかりの濃紺の
普段は革鎧オンリーに近いシモンなのだが……
こうなると、トレジャーハンターないし冒険者という出で立ちが、いっぱしの魔法使いらしくなるから不思議だ。
無事に新居も決まった。
引っ越しは明後日である。
現場で、バイヤール商会の不動産部スタッフと待ち合わせをしている。
シモンの記憶が甦る。
このスタッフからは、高級アパート、マンションも含め、8軒の新居候補を見せられたが……
結局、借りたのは去年建てられた、新築同然の貸家となった。
王宮から徒歩10分、貴族街区の5LDKバルコニー付きの2階建て。
そこそこ広い敷地には芝生が一面に植えられた庭。
加えて、地下室&馬車駐機場付きの結構な貸家である。
ひとりで住むには広すぎるが、シモンは熟考の上、この貸家に決め、契約したのである。
この貸家はバイヤール商会の所有という事もあり、家賃も融通が利いた。
月額金貨50枚のところが、何と格安の、金貨15枚。
諸経費、管理費等を入れても半額以下の金貨20枚であった。
礼金、敷金なし、更新料も全く不要。
結果、充分、王国復興開拓省から支給される住宅手当100枚では、楽勝ともいえる支払い金額となった。
シモンがしばらく居住して気に入れば、バイヤール商会の不動産部スタッフは、市価の半額以下で売ってくれるともささやいてくれた。
これらの優遇措置は全て大学の良き先輩で上司アレクサンドラ・ブランジェ伯爵のおかげであろう。
さてさて!
この新居へ持って行くのは、魔導書と商品の図鑑が各数冊。
わずかな家財道具。
これらは少し前に習得したばかりの高位空間魔法を行使。
生成した倉庫代わりの異空間へ放り込んであった。
それゆえ、5LDKの新居へ越すというのにとても身軽な移動である。
シモンは新たな職場でリスタートする記念に思い切った。
愛着があってまだ使用可能なもの以外は、学生時代に使っていたオンボロな家財道具を全て廃棄したのだ。
ちなみにつぎだらけのブリオーは、母の手縫いの為、大切に保管している。
これからの新生活で使う家財道具は、ほとんどをバイヤール商会で購入した。
商会は、契約した新居に配達してくれるはずだ。
シモンは燃えている。
希望した魔法省ではなく、新設された王国復興開拓省の職員ではあった。
だが、雨降って地固まる。
ということわざ通り、王国の国家公務員となる希望は叶った。
それも魔法省より遥かに高給。
いきなり局長という役職まで拝命してしまった。
上司達にも恵まれた上、仕事だってたいへん意義のある、人々の役に立つ仕事なのだ。
それに心の中で、内なる声が告げていた。
これからは、思い切り、気持ち良く仕事が出来ると。
まずは帰省出来なかった分、優先して親孝行。
母へ仕送りをする為に、ティーグル王立魔法銀行へ……
いきなり桁違いな大金を送り、驚かせ過ぎてもまずい。
なので、金貨100枚だけを送金しておく。
これでも今までは苦しい中、毎月金貨10枚の仕送りであった。
100枚は一気に10倍の仕送り。
母は飛び上がって喜ぶに違いない。
それに一度に大金を送るより、こまめに送金した方が母もシモンの無事を知り、喜ぶであろう。
「驚かないで。無事転職が決まり、契約金として貰ったよ」と母宛の手紙も出しておく。
母へ送金し、手紙を出してから……
鼻歌を歌い、シモンがやって来たのは、王都の書店通りである。
この書店通りは、王都商館街区の奥へ入った中の横道にあった。
20軒余りの書店が
この大陸の殆どの書物が手に入る場所である
当然その中には魔導書専門の店もあり、品揃えも充実はしていた。
古本屋も含めておびただしい本の中から好きな本や掘り出し物を探す楽しみもあり、敢えて、そのような店で目指す専門書を探すのが好きな者も居た。
そもそもシモンは、読書が大好きである。
子供の頃から魔導書や専門書以外に、小説や伝記、旅の紀行文などほぼ何でもござれ、いわゆる乱読派なのである。
「うっわぁ! すっげぇ解放感!! こうして、ゆっくり大好きな本が読める日が来るなんて、思いもよらなかった。一生ダークサイドな商会でこきつかわれる覚悟をしてたからなあ……最高だ」
独り言ち、にんまり満足そうに笑ったシモンは、行きつけである、
書店通りのとある一軒の書店へ入って行った。
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