第27話「何から何まで!」

 王国復興開拓省長官アレクサンドラ・ブランジェ伯爵と正式に契約をとり交わし……

 晴れて王国職員、それも幹部たる局長となった元ダークサイド商会所属のトレジャーハンター、シモン・アーシュ。


 意気揚々いきようようと庁舎を出たシモンは、買い物を含め、いろいろ段取りを組んで貰う為、まっすぐにバイヤール商会へ赴いた。

 

 シモンは自分には縁遠いともいえるバイヤール商会をあまり知らなかった。


 そもそもバイヤール商会は、貴族や上級市民に顧客が多い大手商会である。

 社屋は石造りの3階建て。

 地下には巨大な金庫と倉庫を有する。

 王国復興開拓省の庁舎ほどではないが、地上の社屋は白亜の巨大な建物である。


 入り口にはいかめしい表情をした屈強な守衛が立っていたが、

 「アレクサンドラの紹介だ」と告げたら、一転、柔らかな笑顔で通してくれた。


 これで緊張が解けたシモンが中へ入ると……大きな受け付けがあった。


 受け付けの社員は、年季が入った革鎧を着たシモンの身なりを見て、ぞんざいな物言いと、不可解な視線を投げかけた。

 だが、開き直ったシモンは気にせず華麗にスルー。

 

 改めて名乗った上で、王国復興開拓省職員の身分を明かし、更にアレクサンドラ・ブランジェの名を出すと、社員の態度が一変した。

 

 青くなった社員が、奥へ引っ込むと……

 入れ替わりに、支配人のラウル・フィヨンがすっ飛んで来た。

 

 現れたラウルは30代半ば、中肉中背。

 茶色の巻き毛で鳶色とびいろの瞳。

 イケメンのやり手という雰囲気の男である。


 苦笑したシモンは改めて名乗った。


「初めまして、シモン・アーシュです」


「シモン様、申し訳ございません! ウチの者が、大変失礼を致しました。私がバイヤール商会の支配人ラウル・フィヨンでございます」


 シモンは今回、王国復興開拓省に就職した経緯、そしてアレクサンドラから言われて、バイヤール商会へおもむいた事を伝えた。


 アレクサンドラが直々にシモンをスカウトしたと聞き、ラウルは驚いたようである。

 口調と物腰が更に丁寧となる。


「かしこまりました、シモン様。失礼のおわびに当商会は、誠心誠意の対応をさせて頂きます。お話を整理致しますと、まずはお引越し先のご自宅候補をいくつか、予算はお聞きしましたのでお任せください……王宮の最寄り、貴族街区が宜しいですね?」


 さすが御用達たるブランジェ伯爵家の威力。

 さきほどの受け付け社員とは大違い。

 支店長の超が付く丁寧な対応を見て聞いて、シモンは再び苦笑する。


「はい」


「そして生活用品一式を、更にお服をいくつかご入用。とりあえず以上で宜しいでしょうか?」


「その通りです」


「当商会で直接扱うお服は基本的に、仕立てにお時間がかかるオーダーものです」


「そうなんですか」


 補足しよう。

 この世界で上流階級の人間が着る衣服は基本一点物。

 つまり全てがオーダー品である。

 庶民は安価な既製品を着る事もあるが、生産数に限りがある。

 

 ここで中古品たる衣服の登場となる。

 飽きやすい上流階級の人間は使用人へ、着る事が少なくなった衣服の廃棄を命じる。

 捨てられるものはあるが、使用人の多くが中古品を扱う古着屋へ売る。

 主も『給金の補填』だと心得ており、使用人を責めはしない。

 こうして上質の服が、ぼうだいに放出され、一般市民でも比較的安価で手にする事が出来るのだ。


 バイヤール商会は傘下に古着屋があるらしい。

 こういった商会へ、衣服の処理を頼む得意先も多いという。

 

 多分、処理の代金は馬鹿にならない。

 中々、抜け目がないと、シモンは思う。


 つらつら考えるシモンへ、ラウルは告げる。


「はい、しかし今回は仕上がりを待つお時間がないとの事ですので、オーダー品は、ご発注だけお受けします。後日お受け取りにいらしてください」


「はい、了解です」


「シモン様のご採寸だけ行い、急ぎ協力店へセカンドハンド商品を依頼。その後、オーダー品を発注。とりあえずご入用のセカンドハンド商品は本日夕方までに手配しておきましょう」


「大丈夫ですか?」


「はい! ご安心ください、シモン様! ご自宅候補の確認をされたら、当商会のスタッフと共に、一旦こちらへお戻りください。お服を用意しておきます」

 

 てきぱきと、何から何まで段取りを組むラウル。

 さすが商いのプロである。


「助かります。1週間後、王国復興開拓省へ初出勤するものですから」


「成る程! オーダーのお服は勿論、セカンドハンドも含め、シモン様がアレクサンドラ様にお認めになられるような、立派なお服をお手ごろな価格でご用意出来るよう努力させて頂きます」 


 補足しよう。

 『中古』という言葉に語弊があるとの自己判断で、ラウルはセカンドハンドという言葉を商会内では使うのだ。


「ありがとうございます。本当に助かります」


 こうして……

 シモンは王宮に最寄りな貴族街区の新居を超が付く格安で借りる事が出来た上……

 生活用品一式、そして通勤とプライベート用のこなれたデザインの服を、

 オーダー、セカンドハンド共に、必要な数だけで安価で揃える事が出来た。


 しかし……

 バイヤール商会も、ここまでサービスしたのは、計算づく。

 シモンを上得意にする為、「損して得取れ」のスピリットだったらしい。


 この作戦は大成功した。

 

 何故ならばシモンは今後、バイヤール商会をアレクサンドラ同様、御用達ごようたしにする事となったのである。

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