第29話「久々。ひと時の休日②」

「わははは、大漁! 大漁だぁ! 読むのどれくらいかかるかな? 徹夜で一気に10冊行ってみっかぁ!」


 シモンはますます機嫌が良くなっていた。

 

 久々に数軒の書店を巡り……たくさんの本を買ったのだ。

 少しきざに言うのなら「大好きな本の森にたゆたいながら」欲しい本を50冊ほど手に入れたからである。


 購入したのは仕事関係の本、魔導書は勿論……

 料理の本、趣味の本、恋愛小説や、男女交際のマニュアル本まで買ってしまった。

 自宅へ戻り、書斎の書架に並べるのがとても楽しみだ。


 ここで早速、『試作品』の魔道具が大活躍。

 見えないところで、大量の本を収納の腕輪へ放り込むと、書店通りを後にする。


 魔法使いとして更に上を目指すシモンは、これまた少し前に習得した付呪魔法エンチャントに磨きをかけようとしていた。


 補足しよう。

 付呪魔法エンチャントとは、属性を含めた種々の魔法効果を、商品に込める魔法である。


 たとえば『回復の指輪』という魔法アイテム――『魔道具』があったとしよう。

 これはベースとなる指輪へ、治癒の魔法を半永久的に効果が継続するよう、術者が特別な魔力を込めたものである。

 また炎の剣ならば、通常の剣へ火属性の魔法効果を込めたものなのだ。

 この魔法剣を使えば、本職?の魔法剣士ではなくとも『なんちゃって魔法剣士』となれるのだ。


 魔法鑑定士には、付呪魔法を使いこなす魔道具製作のスキルを持つ者が存在する。 

 付呪魔法を習得する事が、鑑定士としての格を一気に上げるといえよう。


 シモンは、行使する空間魔法を更に極め、付呪魔法を完璧にし、収納の魔道具を作りたいと考えていたのだ。

 

 今、使っている試作品『収納の腕輪』はドラゴン3体しか入らない。

 え? 何それと思われるかもしれないが……シモンの目標は町がひとつ入るくらいの収納用魔道具である。

 いわば「目標はより高く!」なので、まだまだ満足してはいない。

 

 また、オーク討伐の際、リュシーが行使したゴーレム魔法を目の当たりにし、大いに興味を持っていた。

 ゴーレムが2体居れば、ボッチのシモンでもクランが組めるからだ。

 

 つまり……

 シモンは学習意欲が半端なく旺盛なのである。


「さあて、昼だ。ランチにするかっ! お金もあるし、い~っぱい食うぞっ!」


 トレジャーハンターをやっている頃、シモンの食事は殆ど野外だった。

 遺跡や迷宮の中での食事も多かった。

 

 狩場の森で修行していた頃は、教官のバスチアンにより、もっと酷いものを、パワハラ全開で強制的に食わされていた。

 

 具体的な種類や名前は伏せるが……

 いつもなら絶対に口にはしない『ゲテモノ』を、サバイバル術の一環?として、無理やり食わされていたのだ。


 念の為、当然毒を持たない、『害がないもの』のみである。

 さすがのバスチアンも、ヤバイ食事をさせ、シモンを毒で『殉職』させる事はしなかったのである。

 

 また当時、シモンは身体強化魔法で肉体や毒耐性を超ビルドアップしていた。

 だから、大丈夫だったとも知った。

 今や、シモンに生半可な毒は殆ど効かない。

 

 ゲテモノを食べて、その歯ごたえに、「ぞっとした」記憶がはっきりと甦り、シモンは苦笑する。

 当然、普通に食用とはならないゲテモノ食いなど、一般の方や良い子は、絶対に真似してはならない。

 

 さてさて話を戻そう。


 まともな食事!

 どんなに良い響きなのだろう。


 それはシモンにとって、大いなる憧れであり、現在は大きな楽しみのひとつである。


 ただ、お金があると言ってもシモンはぜいたくなどしない。

 少し歩いて、中央広場へ出たシモンは、テイクアウト専用の露店が建ち並ぶ方へ歩いて行ったのだ。

 

 テントのような露店が建ち並ぶ一画。

 周囲は美味そうな匂いに満ちていた。


 いろいろな商品を見て、シモンは、少しだけ迷ったが……

 事前にほぼ決めただけあって、てきぱき購入。

 購入したのは、新鮮な豚と鶏の串焼き、種々の素材を使ったパテ、ラグー、そして焼き立てのライムギパンを各2人前ずつ。

 更に香り高き紅茶も水筒で購入。


 補足しよう。

 パテとは、肉や魚などの具材を細かく刻み、ペースト状あるいはムース状に練り上げた料理だ。

 ラグーとは、簡単に言えば煮込み料理。

 ミートソースもラグーの一種である。


 シモンは、露店の周囲に並べられたテーブルの空いている席に陣取り、片端からぱくつく。


「おお! うんめぇ!! まともなメシは、やっぱゲテモノより全然美味いっ! 最高だっ!」


 あっという間に、2人前を完食。

 紅茶を飲み干して、帰宅しようとした時。

 聴覚が常人の数倍あるシモンの耳へ、


「な、何をするのですっ! は、放しなさいっ!! ぶ、無礼者っ!! い、い、嫌ぁっ! だ、だ、誰か! た、助けてぇぇぇっっ!!!」


 救いを求める少女らしき悲鳴が聞こえて来た。

 

 シモンは肩をすくめると、ダッシュ。

 声のする方向へ、全速で走り出したのである。

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