第5話「ダークサイドにはめられた!①」
ブグロー部長の言う通り……
まだ夜が明けない早朝、ひとりの大柄な男がスラム街にあるシモンのアパート、否、月の家賃銀貨5枚のオンボロ長屋へ迎えに来た。
どんどんどんどんどんっ!!!
いきなり!
壊れるかと思うくらい乱暴に扉を叩かれ、「びくっ」としてシモンは飛び起きた。
扉を叩きながら、外から誰かが自分の名を大声で呼んでいる。
「ばたばた!」と泡を喰って飛び起きたシモンは扉を開け、驚愕。
つい、わああっ!!
と思い切り叫んでしまった。
人間離れした、魔物オーガのような、たくましい男がギラリと鋭い視線を投げかけ、立っていたからだ。
扉の向こうに立っていた、男の身長は2m近い。
シモンよりは随分年上。
40代半ばであろう。
スキンヘッドで顔は超こわもて。
日焼けした浅黒い褐色の肌。
まだ春浅く、結構寒いのに上半身はぴちぴちのランニングシャツ一枚、
下半身は、『もも』までしかない超短パンだけ。
シモンが見上げる男の体重は、100Kgを楽に超えているだろう。
全身「むっきむき」の筋肉男である。
筋肉男は、腕を挙げ、自分の肉体を誇示するようなポーズを取った。
「おい、シモン。さっさと
「は、は、はい。か、か、返して来て、しょ、証書もびりびりに破り捨てました……でも、行くってどこへ?」
「ブグロー部長から聞いてね~のか? ……研修だよ!」
「け、け、研修?」
慌てたシモンが速攻で着替えると、男は乗って来た馬車へシモンを無理やり押し込んだ。
老齢の御者へ、馬車を出すよう指示を与える。
馬車は走り出した。
一体、どこへ行くのだろう?
そして何をしに……
御者へ指示を出した男は不安そうなシモンを見て、にやりと笑う。
「おう、シモン! 俺はコルボー商会の新人研修の担当教官バスチアンだ」
「バスチアン……さん?」
「俺の事は教官と呼べ! シモン! お前をよ、一人前にする為、徹底的に鍛え上げるぞ!」
「え? じ、自分を? き、鍛える?」
「おうよ! ひとつ聞くぜ、シモン! お前は、身体強化魔法を使えるな?」
補足しよう。
身体強化魔法とは、体力、頑健さ、運動能力を常人の数倍から超人並みに引き上げるドーピング魔法である。
ちなみに、使用時間とともに大量の魔力を消費する。
「は、はいっ!」
「よっし! ちょっと
「えええええっ!? 俺が!? し、し、し、死ぬって! どこかの『やられ役』が死を宣告されてるみたいっす!」
「はははははは! そんなにびびるなって。闇金に殺されるのもウチで死ぬのも一緒だろ」
「わわわわわ、そんなん一緒じゃないっす! た、た、た、た、助けてぇ~~」
「ごら! 騒ぐな! これが見えねぇのか?」
バスチアンは紙片を取り出し、ひらひらさせた。
見覚えがあった。
これは……シモンがサインした雇用契約書である。
「これは本チャンじゃなく写しだが、おめぇがサインして、ウチと結んだ
死ぬまで!?
コルボー商会で働く!?
従事する仕事や社風が合わないと思っても……
辞めて転職も出来ない!?
「な!? し!? し、死ぬまでってぇ!? そ、そ、それ!! い、い、い、違法じゃないすかぁ!」
「ごら! バカヤロ! 違法じゃない、ちゃんとした合法な契約書だ。ウチの法務部が王国の法律に基づいて完璧に作成してる」
つまり……
コルボー商会が作成したシモンの雇用契約書は、法の網の目をかいくぐった巧妙な内容であったという事。
「ええええええっ!」
「それによ、お前は、部長から、退職金の金貨300枚を前払いして貰っただろ?」
「た、た、退職金って! ち、ち、違いますよ! し、
「俺は知らねぇし、そんなん聞いてねぇ。部長はちゃんと説明してサインさせたはずだ!」
バスチアンはきっぱり言いきった。
だが、シモンは「ぶんぶん」首を振り、否定する。
「あ、ありませんよっ! せ、説明なんて! ろくになかったんですっ!」
「でもよ、おめぇはこの契約書を読んで、納得した上でサインしたんだろ?」
「た、た、確かにサインは、し、しました。だ、だけど……な、納得は! そもそも! な、内容を、よ、良く読んでません……」
完全に動揺したシモンの言葉を聞き……
バスチアンはしめた!
という顔付きをした。
「内容を読んでない? ふうん、そりゃお前の勝手だ。落ち度だ。完全に自己責任! ……って奴だなぁ、こりゃ」
「で、でも……自己責任って……そんな……」
「ごらあっ!
「わあっ!」
「てめぇ! ハッキリ言っとくぞ。子供の遊びじゃねぇんだ! 雇用契約書に自分でサインして、金も受け取り、借金返す為に使った。今更どうのこうの言わさねぇ!」
「ひいいいいい」
こうして……
シモンは泥沼に落ち、はまっていったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます