第4話「がんじがらめ」
コルボー商会営業部長のブグローはまたもニヤリと笑った。
そして、きっぱりと言い放つ。
「がはははは! どうしたどうした、シモン君っ! 何も言えんか! 黙り込んでしまって一体どうしたっ?」
「………………」
「沈黙は
「………………」
「ふん! まだあるぞっ!」
「………………」
「ウチの情報部によれば! シモン君が背負った借金の返済期限は明日いっぱい……しかも借りた相手は外道の荒くれ、やくざ者が経営する
ショックで言葉が出なかったシモンもさすがに反応した。
地獄?
闇金?
どういう事だろうか?
ちなみに、ご存じだろうが……
闇金とは、上限金利を超える違法金利で貸付けを行っている不届きな業者である。
「え? 借金したのが、じ、じ、地獄の闇金!? い、いえっ! ふ、普通の金貸し屋さんでぇ、担当の方も優しそうな、か、か、感じでしたが……」
「ばぁか! かたぎっぽい奴を窓口にして、真っ当な金貸屋だと思わせるのが奴らの手だよ! 借金の取り立てをする実働部隊は別に居るんだ! ……もしも返せなかったら君はどこかの川か海に、無残な死体で浮かぶ……かもしれんぞぉ! がっははははははははっ!」
何と何と!
ブグローは借金の事まで全て知っていた。
借りた相手の事までも……
無言のシモンはどんどん追いつめられていく。
身体が震える。
心はひどく萎えて行く……
ついに耐えきれなくなり、魂の叫びが出る。
「う、うう、ううう……じ、自分が!? むむ、無残な!? し、し、し、死体でぇ!!」
「おうおう、怯えた犬みたいに唸って、吠えて、怖ろしいか? まあ、殺されるのは嫌だよな? ……だが大丈夫! シモン君は運が良いぞっ!」
「へ? じ、自分が? 運が良い……のですか?」
「おう、そうさ! たくさんある就職先候補の中、我がコルボー商会へ面接に来て、私ブグローに出会い、超ダークサイドだった君の運は一転した! ぱあっと明るく開けたんだ! 安心しろっ!」
「………………」
無言となったシモンへ、「にやにや」するブグローは一枚の紙片を取り出した。
手に持ってひらひらさせる。
だが、動揺するシモンには良く読めなかった。
……文字がびっしりと書かれた紙片らしい。
一番下には、サインを書くらしき空欄がある。
「ほれほれ、シモン君がこの雇用契約書にサインしたら、即採用! 我がコルボー商会へ、完璧に入社決定だあっ!」
雇用契約書?
サイン?
えええっ?
即採用?
入社決定!?
ろくにやりとりもしていないのに?
と、いうかこの部長……自分の会社の事を何も言わない……
具体的にどんな仕事をさせるのかも言わない。
募集していた仕事って……本当に魔法鑑定士なのぉ!?
大きな不安がシモンの心を染めて行く。
「えええっ、こ、こんなんで採用なんですかっ? し、試験どころか、ろくに面接もしていないのにぃ!?」
「何、寝ぼけてるんだ? 最初に言っただろ? 君の事は洗いざらい調べたんだ。間違いなく採用だよ。ちなみに保証人は母親にしといたぞ」
「さ、採用……なんですか……」
「ああ、採用となれば、
今まで散々鞭うたれたところへ、いきなり差し出されたあま~い飴……
シモンは大いに動揺する。
「うわぉ!? き、き、金貨300枚っ!? 給金は、べ、別ぅ!? す、凄いっ!」
「おお、凄いだろ! 君の借金は金貨180枚、この支度金があれば清算は楽勝だ! 闇金へざまぁして、金を叩き返して来い」
「や、闇金へざまぁして……叩き返す……死ななくて済む」
「そうだ! ウチへ入社すればキレイな身体になれるんだぞ。生き延びる事が出来るんだぞ!」
「う、ううう……き、きれいな身体に……なれる……生き延びられる!」
「さあさあ! シモン・アーシュ君!
「………………」
「どうしたぁ! 闇金に消され、川にぷかっと死体で浮かびたいのかぁ!」
てめぇ、死にたいのかぁ!
みたいなセリフがとどめとなった。
自分が死体になった様子が心に浮かぶ……
シモンは遂に!
遂にコルボー商会との雇用契約書にサインをしてしまった。
「は、はい……こ、これでよ、宜しいですか」
「よっし! 間違いなくサインしたな! シモン・アーシュ君! これで君は、今日から我がコルボー商会の社員だ! 私達の仲間だぁ! がっはははははははは!」
サインした後は、がっくりとシモンの力が抜けた。
全身が「ぐにゃぐにゃ」だ。
まるで意思のない操り人形……
もうブグローの言いなりである。
「は、は、い……これから、お、お世話になります……よ、宜しくお願い致します」
「うむ! 君の雇用契約書は私が預かっておく。さっさと経理で金を受け取り、闇金で借りた金を返して来い」
「は、はい……あ、ありがとうございます」
「闇金へ借金を返したら、そのまま帰宅して良し! 明日朝一で迎えの者を行かせるからそいつの指示に従うんだ」
「は、はい……」
「ようしよし……気を付けていくんだぞぅ……明日の朝、逃げられないよう……いや、何でもない。とにかく! ウチの社員を迎えに行かせるから……な」
扉を開け、シモンを室外に出したブグローは再度念を押した。
そして、格好の獲物を捕らえたと言わんばかりに、またまた「にやり」と笑ったのである。
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