一条光輝の追憶Ⅲ



「俺はあれからずっとお前を思って練習してきた。誰よりもなによりもお前を目標に。俺な、大学なんか行くつもりなかったんだ。でも今なら言えるよ。行ってよかったって。お前と会えたんだからな」


「そうか」


「あれから四年経った。もうガキじゃない。立派な大人だ」


「あぁそうだな」


「もう、夢を見るのはやめようって思う頃だ」

 

 俺はずっと思ってた。

 根本的なところで俺はあいつをどう思ってるんだろうって。


 中学最後の大会。

 試合を放棄して俺らは棒立ちした。


 もちろん雫はなんでって言ったよな。

 それもきっと自分が悪いんだって一番に考えて、それでもなお俺らをどうにかしてくれようとした。

 何でお前が俺らみたいなやつにそんな顔するんだよ。


 俺らが絶対に悪いだろ?

 なんで止まってるんだよ!動けよ!って力強く言えよ。

 俺が勝たせてやってるんだから動けよって言ってくれよ。


 

 でも絶対にそんなこと言わなかったよな。

 俺らも俺らが悪いことなんて重々承知だ。

 ただの妬みだ。

 ただの自己嫌悪だ。


 それでも俺はそれが間違ってたとは思わない。

 きっと俺が雫の優しさに漬け込んでそれを鵜呑みにしていたのなら、何も成せなかったから。

 一番そばにいたから、一番それを感じ取ってた。


 あの頃みたいな笑顔溢れる生活が夢みたいだ。

 夢物語。

 あぁだったって思うことは簡単だ。

 あの頃と、高校の俺と、今の俺……。


 本当に間違っないって思ってるのか?

 




 いや、やっぱり違うか。

 俺らのやったことを正当化するためなんて大層なお触れ書きなんかにできないな。

 だって俺らのやったことは正当化できるようなものじゃない。


 いつかのあいつも言ったじゃないか。

 

 ――サッカーは楽しんだもん勝ち。


 楽しまないと負けなんだ。

 ずっとお前を追いかけて、見失って楽しむことを忘れてた。

 ボールを見ても思い浮かべるのはどんなものよりお前だった。


 それを楽しいかって聞いたな。

 楽しくなかったよ。

 どんなに努力してもどんなに上手くなろうとも、きっとお前より劣ってるんだってどこかで思ってしまう。

 それをまた原動力にずっとボールを蹴ってそして三年を費やした。


 もう終わりにしようって思ってたんだろ?

 俺は。


 何あの頃みたいにガキみたいに感情をそのままに吐き出して、自分がお高くとまろうとしてるんだ。

 俺はただの井の中の蛙なんだ。

 それをずっと長年拗らせて、ずっと嫉妬に囚われて。


 馬鹿だよな。


 お前と会って、そしてこのフィールドでこの舞台に立って初めてそれに気づくってさ。

 本当馬鹿。


 大地は気づいてたのかな。

 いや関係ないか。


 今は俺だけの、俺だけの空間だ。

 


 こうなれば色々見えてくるもんだ。

 雫が変わったことも。


 特に俺らに対して無関心なところが特に。

 

 雫は元々俺らのことどう思ってたんだろう。

 やっぱりちょっとドリブルとシュートができる奴ってくらいなのかな。


 今になってこんなこと思っても仕方ないか。


 せめてサッカーをしているときぐらい、あのときのような顔を見せてくれたらいいな。

 サッカーが好きと言ったあの頃の雫と、サッカーが好きだからと答えた今の雫のギャップが物語ってる。

 もう、終わったことだって。


 なら、終わりにしよう。


 俺はずっと、


「だから俺の憧れであってくれてありがとう」

 

 たった一言。

 お前に憧れてたんだ。



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