藤宮和雄 5
心臓が高鳴る。今日、本当の親、中山夫妻に会えるのだ。
しかし、その反面、不安もかなり大きかった。
中山夫妻は僕を受け入れてくれるだろうか、なんだかんだ言って結局「今まで育てた子の方が大切だ」などと言われたら、もう一生、僕はあのバカ親の所のままだ。
病院から電話があったあの日から、色んな不安要素が頭をちらつかせている。
もちろん、病院の事を恨んだりもした。だか、それももう過去の話だ。
さっきから落ち着きがないのが自分でもわかる。待ち合わせの場所へ向かう車の中で、髪をいじってみたり、座る位置を調節してみたりしてどうにか落ち着こうと試みたが心臓の音は鳴り止まなかった。
僕たちは約束の時間を二十分も過ぎて到着した。
僕たちを待っていた中山夫妻は、遅れてきたのはこちらなのに、わざわざ立ち上がって会釈をしてきた。そのあとに、
父の方を一瞥すると、父は中山祐介を睨み付けていた。
同席していた医院長が「本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございます」と、定型文を口にしたのを合図に、中山夫妻は、夢から覚めたかのように落ち着きを取り戻した。
中山夫妻は皴一つない冬用のスーツに身を包んでいた。隣には同じくスーツを着た伸久が、両親に倣い立っていた。
父はスーツを着ていたものの、所々に皴があり、見苦しかった。いっそのこと着てこなければよかったと思うほどだ。当然、僕も皴だらけのスーツを着ていたので、恥ずかしくなった。僕と伸久の育った環境の格差が、着る物一つではっきりと出てしまった気がしたのだ。
お互いに挨拶をし終わった後、医院長からの謝罪があり、今後についての話し合いが始まった。
話の内容としては、「こうなった場合、ほぼ百パーセント子供を交換する形になる」ということ、「交換はなるべく早い方が良い」ということがお互いの両親に説明された。
話し合いは、そのうちにこんなことになった原因の病院に対する批判に移り変わっていった。
中山夫妻は今の自分たちの心情と悲しみをぶつけ、父は賠償金の事を口にしていた。
医院長は困った顔をして、ただひたすら頭を下げていた。
やがて中山祐介から解散の提案を受け、お互いに部屋を出た。
「また今度、家族だけで会って話しませんか?」
帰り際、中山祐介がさりげなく提案してきた。きっと今回の話し合いでは、隣に医院長と弁護士がいたので言いたいことを充分に話せなかったのだろう。
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