二月十五日(月)

 学校が休みで会えなかったから、と手作りのお菓子をもらった。ホームルームが終わって、教室を出た直後に。

「え、ありがとう」

「ううん、好みの味じゃなかったらごめん」

 そう言って、彼女はすぐ踵を返した。一度目線を床に落として、右側の髪を数回撫でた。もう一度目線を上げて、その姿が教室に隠れてから、部室に向かってゆっくり歩き始める。

 部室で友人たちの冷やかしを振り払うのに苦労したなと振り返る。電車に揺られながら、通学鞄の中で大事そうに守られているそれを何度も確認した。

 家に帰って靴を脱いで、顔を上げたとき。玄関の鏡に映った顔が、珍しく目に留まった。何というか、自分の表情が、心なしか笑顔に見えた。部屋に向かってあわてて走り始める。

 視界の隅に、黄色のマーガレットが一瞬だけ映った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る