六十七話 絆・二

 ノースに着いて早々に盗賊を捕らえたヴァルアスは、その後もちらほらと依頼を請け負いつつ数日を過ごしていた。

 

 旅の疲れ――主にシライトが起こした騒動での戦闘によるもの――が溜まっていたこともあったが、ヴァルアスには別の考えもある。

 

 それはここまでの旅で見てきたガーマミリア帝国の現状に対して「できることはないか?」というものだった。

 

 シャリア王国では長く冒険者ギルドでギルド長を務めたヴァルアスは、帝国にその仕組みを単純に持ってくるのではやはりうまくいかないだろうことも理解している。

 

 やはり各地を領主として治める貴族の権力が強いこの国では、冒険者ギルドという戦力を持つ組織を作ることは利益よりも軋轢を生むだろうと予想された。

 

 冒険者としての功績と、帝国の貴族どころか皇帝に伝手があるヴァルアスが多少強引にでも動けば、そういった軋轢を押しのけて冒険者ギルドと同等の組織を作ることは可能だろう。

 

 しかしその結末は、結局スルタ冒険者ギルドで経験したことと同じかもっと悪くなるような気がしていたのだった。

 

 そういったことを考えながら実情を見聞きしてきたヴァルアスとしては、ゲールグ領の道端亭が答えかもしれないと思い始めている。

 

 何より実際にああいった冒険者のたまり場として機能する場は各地にあるようだし、ギルドというほど大掛かりな組織ではないが、そこへ行けば困った庶民も何らかの助けが得られるという小さな“店”のようなものがちょうど良いのではないか、と。

 

 自然発生的に成立するたまり場、ではなく、そういう商売として立ち上げる小規模な冒険者屋。

 

 そういうものを、それこそ名の知れたヴァルアスが率先して前例を作れば、ガーマミリア帝国の仕組みにも馴染む形で冒険者という存在が今より広がるというのは、決して楽観的な予想でもないと思っていた。

 

 「……面白いですね。それこそヴァルアスさんだからこそという試みだと思います」

 

 漠然としていた思考をまとめるために、ヴァルアスが話し相手となってもらっていたペップルが、何度も頷きながら肯定する。

 

 「そうか、ふむ……」

 

 駆け出しとはいえ商人の力強い同意を得られたことで、ヴァルアスとしてはより具体的に考えても良いという気持ちが強まった。

 

 「すぐに動きますか? 店として、ということならまずは場所の確保ですよね。それならムクッシュさんに話せばきっと――」

 

 うずくところがあったようで、ペップルは早口に話して、今にも走り出しそうな仕草を見せる。

 

 だがさすがにそこまで性急には考えていなかったヴァルアスは、少し慌てて制止しようとペップルの肩を押さえた。

 

 「いや、協力してもらえるのはありがたいが……、さすがにちっと待ってくれ。ワシにはまだこの旅の目的があってな、その後でここへ戻ってきてからの話だ」

 「あ、そうでしたか。はは、早とちりでした」

 

 実際に始めるならここノースがちょうどいいとはヴァルアスも思っていたものの、そもそも今はさらにここより北、ノース山脈の竜族砦を目指している最中だ。

 

 そこで懐かしい戦友たちとの再会と、そして果たすべき約束があるからだった。

 

 「ま、すぐに戻ってくる。また相談するから協力してもらえるならその時に、な」

 「はい!」

 

 ヴァルアスの記憶にある限りでは癖のある性格といって差し支えないケネ・ザイブを師としているわりには、ペップルがまっすぐとした視線を向けてくることが好ましく、そして少し面白くも感じて、ヴァルアスは思わず破顔した。

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