四十二話 二人の冒険者・六
草原には数体の魔獣が死骸となって倒れ、その傍らには難しい顔でヴァルアスが立っていた。
「どういう……ことだ、これは?」
ここは道端亭からは少し離れているものの、同じゲールグ領に属する範囲内。
周辺には他に目立った魔獣の痕跡はなく、今ヴァルアスが切り捨てた数体の他には普通の動物しかいない、比較的平和な場所といえる。
その理由としては、ここからすぐ近くに道端亭が面しているのとはまた違う大きな街道が通っているために、ゲールグ領主の騎士団がよく巡回する場所となっているからだった。
ガーマミリア帝国内ではあまり精強とはいえない実力であるとはいえ、衛兵ではなく騎士が定期的に来るような場所では、よほど好戦的なもの以外は魔獣といえども寄りつかなくなる。
数少ない寄りつく魔獣についても、ごく最近に領主から雇われた流れの冒険者が一パーティとなる四人で討伐したばかり、とヴァルアスは道端亭で聞き及んでいた。
「ファングウルフは確かによく移動する種類の魔獣ではあるが……。それに」
見渡せども、やはり他に痕跡はない。魔獣の死骸も、冒険者が戦った跡も。
ヴァルアスが違和感を探るべくここへと辿り着いた時、ただファングウルフの小さな群れがいた。
「最近ここで討伐したという冒険者の報告は怪しい、となるな」
報告で嘘をついて報酬をせしめようとする悪徳冒険者は、シャリア王国にも多くは無いがいる。
特に冒険者ギルド長という立場にあったヴァルアスは、そうした者たちを発見し、制裁を加えることも何度も経験していた。
直接知っている訳ではないから推測にはなるが、流れの冒険者が個人で活動するガーマミリア帝国では、そうしたこともより多くなってしまうだろうと察せられる。
だが、ことこの周辺に限っていえば、ヴァルアスとしては意外だった。
道端亭が小規模なギルドのような役割を果たし、そこでリーダー格となるシライトや彼を支える数人のベテランたちがうまく規律を保っているように見えている。
カヤを弟子にとって修行をさせ始めてから、しばらくはそうして感心してばかりいた。
しかしここ最近になって、ヴァルアスが長年の経験から肌で感じる周囲の状況と、冒険者たちや彼らに依頼した商人などから聞く話の内容に、食い違いを覚えるようになっていた。
ある種の職業病といえるかもしれないが、そうした違和感を無視できなくなったヴァルアスは、一人で周辺を探索しにきて、早速にこの状況と出くわしている。
よそ者が安易に口を挟むことによる軋轢を避けるため、カヤにすら詳しいことは説明せずに動いたことを、ヴァルアスは少し後悔し始めていた。
「何か、良くないことが動き始めているのか……?」
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