3/14『銀貨×林×引っ越し』
お題『銀貨×林×引っ越し』
「で、結局あんたどこに居る訳」
いつもの放課後の教室。
学園のアイドルこと愛取姫子が訊いてくる。
「引っ越した」
なんというか、家が焼けてからの初登校はこんな感じでみんなから同じ内容の質問攻めを波状攻撃でくらってていい加減面倒くさくなっていた。
「どこに?」
「……謎野さんの家に」
「え? まさか一つ屋根の下に!?」
愛取が律儀に驚いてくれるが、もうその反応には飽きてきた。
「いや、彼女の家にある離れだよ。離れ小屋。そこに住まわせて貰うことになった」
「豪邸があるとかなんとか聞いたけど、敷地内に家がもう一つあるのね。ちょっと想像できないかも」
「なんというかまぁ、とりあえずプライベートが保たれたのでなんとかなった、て感じというか、でも他人の家にやっかいになってるのはちょっと心苦しいところはあるなぁ」
はぁ、と俺はため息をつく。
何故愛取にこんなことを相談してるのやら。
「ふーん。でもまあ、あんたはあのいけ好かない女が好きなんでしょ。私は嫌いだけど」
「まあね。謎野さんのことは気に入ってるよ」
「そっか、よかったわね。私は嫌いだけど」
何故だか不満げな愛取に俺は眉をひそめる。
「何? 拗ねてるの?」
「拗ねてませーん」
「メチャクチャ拗ねてるじゃないか。彼女作れって言ったのお前だろ」
「そりゃそうだけど、まさかあんな女連れてくるとは思わなかったもの」
「どんな女?」
「性格悪そうな女」
女の子の言う性格の悪そうな女あまり信用できないので困る。
本当に性格が悪いパターンと、見た目が自分より良いのが気にくわなくて、人格攻撃してる場合と、二種類ありえるのだ。
「まあいい、それでお前はどうなんだ?」
「え?」
きょとんとする愛取に俺は目を細める。
「俺がカノジョできたんだから、友崎にアタックしろよ」
「あ、それはそうなんだけど……」
「どうした? 歯切れ悪いな」
「友崎くんもあの女のことが気にくわないらしくて、なんというかどうやったらあの女とあんたを別れさせられるか、みたいな相談受けてる」
「ウケる」
「ウケないわよっ! おかげでなんか告白する雰囲気じゃないし!」
「でも、共通の友人として友崎とはちょっとは距離が縮まったんじゃないか?」
「さぁ、どうかしら? 会話の時間は確かに増えたかもだけど」
この子も俺に対してはやたら当たりが強いくせになんで好きな相手にはこんなにも弱々しい女になってるのか。人間とは実に難しいものである。
「あれだったら俺と謎野さんで何かダブルデート的なものを仕組んでやろうか?」
「お断りよ」
「即答かい」
「当ったり前でしょ。別に、あんたがあの変な女と付き合うのは別にいいけど、私を巻き込むのだけはやめて」
「まあ、善処する。とはいえ、俺と友人関係を続けるのなら、どこかで必ずかち合う時は出てくるぞ」
「その時はその時よ」
俺はふと思い立ってポケットからコインを取り出した。
「ちなみに、コレが何か知ってるか?」
「? 銀貨?」
「ああ。俺が謎野さんの家の離れ小屋に引っ越したって言っただろ。豪邸の庭にある林の中にある小屋なんだけど、その林の中を散歩してたら拾ったんだが」
机の上にちょこん、と置いて二人で見つめる。
「……見たことない銀貨ね」
「ああ、俺も詳しくないけど、外国の通貨を調べても全然ヒットしない。画像検索でも類似のものを見つけられない」
「そんなものがあの女の家の庭に?」
「何かの手がかりになるかも、と思ってな」
「というかあの女の家はどんな仕事してるのよ?」
「謎だな」
「……豪邸持ってる金持ちなのに?」
「調べてもヒットしない」
「そんなこと、この令和の世にある?」
「ふつーはないはずだが、あるんだから仕方ない」
ありえないことだが、あり得てしまってるのでもうそれ前提で考えるしかないのだ。
「なんにしても、謎野さん家は何か秘密がある」
「まあ、名字が謎野だし」
「それを――暴こう」
「へえ、面白くなってきたじゃない」
かくて俺たちは謎野さんについて探るべく動き出すのだった。
了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます