3/4『投資×湖×贈り物』

お題『投資×湖×贈り物』


『で、彼女出来たのあんた?』

「一日や二日で出来るもんじゃない」

『はぁ? あたしなら一日で余裕よ』

「本命の友崎を落としてから言えよその台詞」

『ふざけんじゃないわよ! 友崎くんをそこら辺の雑魚彼氏と一緒にするのやめてくれる!? というかあんたもSSRクラスの彼女を探してるつもりな訳?』

「まさか。なんというか、好きになれる女子がいないだけだよ」

『えり好みとかせず、適当にR女子くらいで我慢しなさい』

「ソシャゲみたいに人間をレアリティ付けするのは失礼だからやめよう」

『まあそうね。とはいえ、私以上のいい女がいるはずがないんだけどね!』

「はいはい。とりあえず、自分に自信があるならとっとと友崎を落としてくれ」

 俺は苦笑しながらスマホの通話を切った。

 通話相手は学園のアイドルと名高い我が高校の誇る美少女こと愛取姫子<あいどる・ひめこ>だ。彼女は学園一の美少女であり、俺はその学園のアイドルから彼女を早く作れと急かされている。

 それは何故か。

「よう、折野。今から帰りか」

 教室を出たところで聞き慣れた声に呼び止められる。

 振り返るとそこにいたのは高い身長にさわやかな笑顔を持つイケメン――幼なじみの親友こと友崎が立っていた。

「まあな」

「お前もやることないなら部活やろうぜ」

「知ってるだろ。俺に運動神経がないこと」

「足は速いだろ?」

「そこそこだよ。クラスでも中の上って程度だ」

「またそうやって卑下する! ていうか、一緒に部活しようぜ! お前がいないとなんか始まらないんだよ!」

「いや、やめておく。じゃあまた明日な」

「おう、じゃあまた明日」

 友崎に別れを告げ、俺は学校を出る。

 学園一の美少女は今、俺の幼なじみにご執心で、そして俺の幼なじみは女よりも俺を優先する。なので、俺がいる限り、いつまで経っても友崎には彼女が出来ないという訳だ。

 そこで、学園のアイドルが出した提案は俺にとっと彼女を作れ、という話である。

 ――まあ、俺も彼女が欲しいと言えば欲しいけどな。

 だからといってすぐに出来るものでもない。流石に誰でもいいって訳でもないし、好きでもない相手とくっつくつもりもない。

 あの内弁慶で外面だけは分厚い学園のアイドルの言うことを聞く義理はないのだが、はてさてどうしたものか。

 と、ぼーっと歩いていると視線を感じた。

「…………?」

 ばっ、と振り返るとさっと隠れられる。

 いる。

 明らかに誰かがつけている。

 俺は通学路の途中にあるショッピングモールに入り、ふっと曲がり角で待ち伏せをした。

 曲がり角で突然姿を消した俺に慌てて後ろからやってきたのは――同じ高校の女子だった。

「俺に何の用だ?」

「わっ!」

 背後をとられて尾行していた女子が飛び退く。

「……え? 嘘。なにその忍者みたいな挙動。折野くん、尾行されるのに慣れてるの?」

「慣れている」

「嘘! なんでぇ!?」

 相手は知らない女子だった。少なくとも同学年ではあるが、別のクラスの女子だろう。そしてこの手の女子にストーキングされることに俺は慣れている。なぜならば俺に女が近づく理由は一つだからである。

「当ててやろう。お前は友崎に惚れているな」

「嘘! なんで分かるの!?」

「お前がありきたりな女だからだよ」

「ひっどぉい! これでも頑張って私なりに出した方法なのに!」

「……悪いが、中学時代からこの手の展開には慣れている」

 そう、よくある話なのだ。

 友崎に惚れた女が、親友である俺に近づいてなんとか友崎くんに紹介して貰おうと頼んでくるのは。ぶっちゃけ、あの学園のアイドルも同じ事をしてきた。

「嘘。そんなにあることなの?」

「あることだな。むしろ、一年生の三学期に実行してきた辺りお前の行動は遅い方だ」

「仕方ないじゃない! 私が彼を好きになったのは最近だもの! あれは遠足で湖にみんなで行った時のことだけど――」

「あ、あいつに惚れたエピソードは別にいい」

「んむぅ! 話が早いけど拒絶も早い!」

「じんーゃあお前の知りたいことを教えてやろう。あいつには今彼女はいない。そしてお前と同じようにあいつに惚れてる女子は学校に幾らでもいる。

 で、あいつに紹介して欲しいなら紹介してやろう」

「嘘。なにその手慣れた対応。まるでRPGでクエストをこなすNPCみたい」

「まあ、手慣れてるからな」

 嫌な慣れ方だ。

「悪いけど、俺は紹介するだけで仲を取り持つことはしない。振られても俺の知るところじゃない」

「えっと、手慣れすぎてない? もはやお仕事みたいになってるよ」

「他に質問があれば聞こう」

 突き放した俺の態度にストーカー女子はむっとする。

「そんなことよりも、まずは私が誰かとか聞かないの?」

「明日には友崎に振られる女の名前をいちいち覚えてられないよ」

「ひどい! 振られるとは限らないでしょ!」

「ああ、可能性はゼロじゃないな」

 とはいえ、振られる可能性の高い女子に投資するほど俺も優しさの貯蔵量は多くない。

「分かった。明日振られた後に慰めるために一応名前くらいは聞いておくか」

「嘘。そんな失礼な名前の聞き方ある? 私は須戸鹿子<すど・かのこ>よ」

 ――ストーカーをするために生まれた来たような名前だ。

「覚えやすい名前だな」

「嘘。え? どこが? 私よく覚えにくいって言われるんだけど」

「忘れてくれ」

「むむむむむ。なんなの! 私みたいな可愛い女の子に話しかけられてるんだからもっと優しくしなさいよ!」

 ――くっ、生まれてこの方優しくされるのが当たり前だったタイプの美少女か。

 面倒くさい。男にチヤホヤされるのが当たり前なのでチヤホヤしない相手を非人間扱いするタイプ、実に俺と相性が悪い。

「……友崎への告白に成功してから考えるよ」

「なにその条件。男の子だったら可愛い子とは無条件に仲良くなりたいもんでしょ。

 そういうもんだってみんな言ってる」

「……紹介するのやめようか?」

「嘘嘘嘘。ごめんなさい。私が悪かったので友崎くんに是非紹介してください」

 俺の一言にさっと態度を変えるストーカー女子こと須戸。

「どちらの立場が上か理解したようだな」

「くっ! なんでこんな奴が友崎くんの親友なの!?」

「昔から仲が良かったから、としか言いようがないな、そこは」

 何故、と聞かれて答えられる物でもない。

「分かったわ。実は私もあなたに贈り物を持ってきたのよ。タダで友崎くんを紹介してもらうのも気が引けるしね」

「ほう。贈り物」

 珍しいパターンだ。

「うちのクラスの女子を紹介してあげる。私の女子グループは可愛い子が勢揃いしてるからきっと気に入る子がいるはずよ」

「……いや、やめておく。そう言うので好きになれる気がしない」

「えー!」

「何よりお前が友崎に告白成功する未来が見えないので」

「ひっどーい!」

「まあいい、連絡先を交換しよう。明日の昼休みに友崎を呼び出してやる」

「……分かったわ。でもそうね。私が告白失敗しても、一人くらいはオススメの女子を紹介してあげる」

「おっと殊勝だな」

「ギブアンドテイクよ。借りは必ず返すタイプなの。

 みてなさい! 明日は私が告白を成功させるんだからね!」

 かくて次の日、俺は彼女から一人女の子を紹介して貰うことになるのであった。




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