第七話 錆びた心はガラクタか

キラキラ輝くような綺麗な日差しが窓から差し込む。多くの通行人の往来が朝の訪れを感じさせる。俺はコーヒーを飲みながら考えていた。


「あの、高木さん前にアルバイト雇たいって言ってましたよね?」


「そうなんだよ、土日だけで良いんだけどねぇ」


「ちなみに給料ってどれくらいで考えてます?」


「そうだね、土日だけだから出せても月5万円ってくらいかな、なに?病葉くん仕事辞めるの?」

冗談交じりに微笑みながら答えた。


「いえいえ、そういう訳じゃないんですが、ちょっと心当たりありまして」


「なんだい誰か良い子紹介してくれるのかい?」


「ええ、それで少しマスターにお願いがあるんですが…」

俺はマスターに考えを話はじめた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「見てみて!亮さん似合いますか?」

南がくるくる回りながら嬉しそうに聞いてくる。


「ああ、とっても似合ってるバッチリだよ」

今日は南が高木さんの店でアルバイトする初出勤だ。


そしてなぜ俺が立ち会ってるかというと、無論この話を持ち掛けたのは俺であり前のアルバイトより遥かに拘束時間が短くなる事で、勉強が捗るだろうという理由で持ち掛けたのだ。


「南ちゃん、凄く髪が綺麗で可愛いけど一応、食品も扱う店だから髪の毛は束ねてもらおうかな」


「はい、分かりました」

そして高木さんは仕事を教え始めた。俺はコーヒーを飲み新聞を読みながらその風景を眺めていた。


「いや~南ちゃんは飲み込みが早くて助かるよ」


「ありがとうごさいます、前のアルバイトで接客もしてたので」


「うむ、元気も良いし、慣れるまで大変かもしれないけど頑張ってね」


「はい!頑張ります!」


南の様子を見ていると心配はなさそうだ。

「じゃあ俺は行くから、頑張りなよ。高木さん後はよろしくお願いします」


「え、亮さんどっか行くんですか?」


「うん、せっかくの休みだしのんびり買い物でもして、映画でも見てくるよ」


「あ、いいなぁ~」


「南には悪いが頑張ってな、また後で様子でも見に来るよ」

ドアを開け外に向かった。


「いってらっしゃーい!」


手を軽く振り前を向いて歩き出した。鏡を見なくても分かる、この時の俺の表情は絶対に…


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


心地良いバイオリンの音色が響き渡りそして静かに鳴りやんだ。そして空間は暗転から解放され光に包まれた。この映画、ストーリーはいまいちだが音楽は良かったな、音楽のできと作品のできは比例するのが持論だったが、そうでも無いのか…そんな風に考えながらスマホを見ていると、メッセージが入った。


“亮さん何時頃戻ってきます?”


南からのメッセージだ。もうこんな時間かそろそろ店の営業が終わる頃か。今から戻ると伝え俺は喫茶店に向かう。雨宮市というのはとても便利な土地だ。電車を利用すれば大阪駅に15分足らずで着けるし、最近では土地開発も目まぐるしく大型ショッピングモールや駅前には中規模な商店街も立ち並び、さらに今はまだ建設中だが高さ300メートルを超える尼宮タワーというものも近々完成予定だ。これが完成すればさらに人で賑わうだろう。そうこうしている内に喫茶店に到着した。


「お疲れさま、初出勤どうだった?」

店のドアを開け、南にまずは労いの言葉をかけた。


「まだ慣れませんが、良いお客さんばかりで楽しかったです!」


「南ちゃんは常連のお客さんからも評判良いし、言う事なしだったよ」


「それはなによりです。紹介した俺も鼻が高いです」


「にひひ、私そんなこと…あるんですけどね!」

南は謎のポーズを決めながら誇らしげだ。


「調子にのるなー」


「えへへ、」

南は周りの人を笑顔にさせる不思議な魅力がある。こう何か幸せに導いてくれるような、こういうのが人の才能ってやつなのかもしれない。


「私は精一杯やるだけですから。それにこんな良い条件で働かしてもらえるなんて夢みたいです!」


「そうだな、これからも頑張りなよバイトも勉強も」


「はい、頑張ります!」


「ところで亮さんおなかすいてませんか?」


「ん?そうだな晩飯はまだ食べてないよ」


「あの、良かったらこれどうぞ。初めて作ったんでいまいちかもしれないけど」

南は少し照れくさそうに、お皿に盛りつけたサンドイッチを出してくれた。


「これ南が作ったのか?」


「お客さんに出すのはまだ早いけど、病葉くん喜んでくれると思って私が教えてね。南ちゃんセンスあるから、この分だと次はお客さんに出せると思うよ」


「これ俺が頂いても?」


「うん、ぜひ食べてあげて」


確かに見た目は少し崩れている所はあるが、立派なサンドイッチだ。

俺は手に取り大きな一口でかじりついた。


「うん、凄く美味しいよ!」


「えへへ、やったー」


「南ちゃんの分もあるから今日は特別、食べて帰りな」


「え、良いんですか?」


「ああ、それに提供する側が食べた事ないんじゃお客さんに説明できないからね」


「さあ作っとく間に着替えてきな」


「ありがとうございます!」

南は嬉しそうに店の奥の更衣室に向かっていった。


「いや~活気のある、良い子を紹介してくれて、ありがとね」


「いえ俺は何も」


「でも病葉くん本当に良いの?その…言いにくいけどこんな事、普通じゃないよ?」


「俺は全然大丈夫ですよ、無駄に貯金だけはあるので。とりあえず高校生活の残り二年間だし無事に大学進学が決まれば、その時は本当の事伝えて後は相談して決めます」


「そうかい、病葉くんは優しいね。でもその優しすぎる性格がおじさんからすると心配だよ。いつか悪い人に騙されないかと…気をつけなよ」


「心配していただいてありがとうございます。肝に銘じておきます」


パタパタと走って南が戻ってきた。着替え終わったようだ。

「はい、これが当店自慢のサンドイッチだよ」


「わー、凄く美味しそう!いただきまーす!」

俺と南はサンドイッチを食べながら、今日あった事を話しあった。


そして食べ終わると高木さんにお礼を言い、二人は店を出る。


「じゃあ、初出勤お疲れさま」


「はい、ありがとうございました」


「あ南、髪が変な方向にはねてるぞ」

自分の頭を触るジェスチャーをした。


「あ、今日髪結ってたから」


「南の髪はきれいだな」


「そうなんです。実は髪自慢なんです。小さかった頃、お父さんが言ってくれて」


「お前の髪はお母さんに似てとても綺麗だねって。それから私の自慢なんです!」


「そうなんだ」


「じゃあ、私帰りますね」


「うん、気をつけてな」


「はい、お疲れさまでした。次はコーヒーも作れるようになりますね!その時は亮さんに御馳走しますから!」


「ああ、楽しみにしとくよ。じゃあ」


二人は分かれ、俺は階段を上り家に帰った。

なんとも温かい気持ちでこの日の夜は眠る事ができた。



次回 【第八話 インシデントリアクター】

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