20
オリヴィアたちはティアナの部屋にあったゴミを持って、監視棟に戻ってきた。
さすがにティアナの部屋でゴミを広げるわけにもいかなかったからだ。
監視棟の応接間のテーブルの上に、ゴミ箱に入っていた紙屑を広げる。丸めて捨てられた紙は三枚ほどあって、それはどれもティアナが書いたと思われる手書きの遺跡――白薔薇宮の地図だった。
地図には番号のようなものが振られていて、三枚とも地図は同じだがその番号だけが異なっていた。
「この番号に心当たりはありますか?」
ニースに訊けば、彼は顎に手を当てて考え込んでから、「もしかしたら……」とつぶやいて急いで部屋から出て行った。戻ってきた彼は、冊子上に閉じられている紙の束を持ってくる。そして、ティアナの部屋のゴミ箱に入っていた紙と持ってきた冊子を見比べながら、「わかりました」と頷いた。
「これは囚人たちが発掘にあたっている場所と人数、そしてそれを監視する監視員の人数です。一日に四回ほど場所が変わります」
「見せてもらってもいいですか?」
ニースが持ってきた冊子は地図ではなく、それぞれの囚人番号と配置が書かれていた。一日のうち、どの時間にどこに行くのかも書かれている。場所は二週間ごとに交代になるようで、ティアナが手書きで書いていた地図にある番号と、配置されている囚人たちの人数はそれぞれ一致した。だが不思議なのは、一日に四回配置替えがあるのに、ティアナのごみは三枚しかないことだった。一枚たりない。
「……ざっと見ただけなので間違っていたらすみません。最後……夕方の配置が足りなくありませんか?」
交代は午前中に二回、午後から二回あるようだ。ティアナのゴミ箱にあった紙を見ると、午前と午後の最初の配置について記された地図のように見える。
「そうですね、おっしゃる通り、午後の最後の配置分がたりません」
「ティアナの囚人番号は二百十四番でしたよね。そうすると、ティアナが最後に担当するのは八番のあたり……でしょうか」
「はい、そうなります」
「ここの場所は監視員が遠くにいるんですね」
「ええ。監視員は逃亡できないように出口の当たりに重点的に配していますから。ここからだと、こちらからは出られるけれど、こっち側だと中央に向かって進むことになるので出口がないのです」
「なるほど……」
ニースが言う通り、ティアナが最後に担当していた八番地区の出入り口は一つしかない。もう片方は中央――王族が暮らしていたところに向けて道が伸びている。本来は壁があって中央までたどり着けない作りになっていたようだが、壁の一部が崩壊しており、そこから中央に向かえるようになっていた。
「午後の最初のティアナの配置は、すぐ隣の七番地区なんですね」
「ええ。午後からは短いトイレ休憩があるだけですので、近い場所で移動させているんです」
「休憩時間はどのくらいですか?」
「ニ十分ですね」
「その間、みなさん外に出られます?」
「ええ。ほとんどの囚人が外に出ますよ」
休憩時間はニ十分。その短い時間でティアナが監視の目をかいくぐって外に逃げることはできない。しかし発掘作業の終了時間にティアナの姿がなかったということは、休憩と八番地区で発掘をしていたあたりで姿を消したと考えるのが妥当なところだ。
「この、八番地区のあたりに連れて行ってくれませんか?」
オリヴィアが頼むと、ニースが困惑した表情を浮かべて、助けを求めるようにアランとサイラスを見た。
「その……、今は囚人たちが発掘作業中ですので……」
貴族令嬢を囚人たちに近づけるわけにはいかないと思っているのだろう。アランとサイラスも悩んでいるようだ。
「今行きたいんです。あとできれば、ティアナが七番地区と八番地区の発掘を担当していた時に同じところで発掘にあたっていた方からお話をお伺いしたいんですけど……」
「囚人たちとお話になるのですか!?」
ニースが目を剥いた。
アランが額を押さえて天井を仰ぎ、サイラスがくすりと笑う。
「オリヴィアは妙な度胸があるから困るね」
サイラスがそう言って、オリヴィアが見ているティアナの手書きの地図を覗き込む。
「オリヴィアの言う通り、気になるところではあるけれど……」
「どうせ言っても聞かないんだろう。ニース、悪いが、ティアナと一緒に発掘にあたっていた囚人の中で、できるだけ品行のいい人間を呼んでくれ。それからオリヴィア、発掘作業中の囚人たちにあれこれくだらない質問をするのはダメだからな。お前のことだ、珍しい出土品を見つけたりなんかすると、本来の目的を忘れてあれこれ聞いて回りそうだからな」
ひどい言われようである。だが、夢中になると確かにやりそうな気がするので反論できない。
「オリヴィア、君が質問していいのはニースが選んで連れてきた囚人だけだよ。発掘中の囚人には話しかけないこと。いい?」
サイラスまで小さな子供に言い聞かせるような口調で注意を促してくる。
オリヴィアはどこか納得がいかない気がするものの、行くことを禁止されると困るので、素直に「はい」と頷いておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます