10
ドルア男爵領に入るころには、空はだいぶ暗くなっていた。
オリヴィアたちは始発駅のある町の手前の町で宿をとることにした。汽車の乗車時間は明日の昼すぎだ。
長旅で疲れたのだろう、フロレンシア姫の顔には疲労の色が濃い。姫の護衛騎士であるレギオンに支えられるようにして立っているところを見ると、早めに休ませてあげたほうがいいだろう。
アランもフロレンシア姫の様子に気がついたようで、同行している補佐官のバックスに、食事は各部屋に運ぶようにと指示を出していた。
この宿は上流階級向けの宿であるので、女将も心得たもので、バックスの依頼にも快く頷いてくれている。
オリヴィアは自分の部屋の手前でサイラス達と別れたが、フロレンシア姫がレギオンと一緒に部屋に入るのを見てちょっと不思議に思った。フロレンシア姫には侍女も二人ついてきているので、部屋の前で侍女に姫を預けるのが普通だろう。レギオンと姫のあとを、侍女たちが当然のようについて行くのを見ると、フロレンシア姫はいつもレギオンを近くにおいているようだ。
(お茶会の時も思ったけど、よっぽど信頼しているのね)
護衛騎士とはいえ、異性の騎士であれば、多少の距離感を持つものである。護衛とはいえ、異性をあまりに近くにおいておけば、いらぬ噂が立ちかねない。その点、フロレンシア姫と護衛のレギオンはいささか距離が近いように感じる。
もっとも、フロレンシア姫の侍女たちが疑問に思っていないようなので、オリヴィアが口を出すようなことではないだろう。
気にするのをやめて、オリヴィアは部屋に入ると、テイラーに手伝ってもらって着替えをすませた。ややして食事が運ばれてくる。ゆっくりと食事をとっている間に、テイラーが部屋係にバスルームに湯を用意するように頼んでくれていた。
食事を終えて湯につかると、自然とふぅ、と大きな息が漏れる。フロレンシア姫ほどではないが、オリヴィアも疲れていたのだろう。ずっと座っていたために凝り固まった筋肉がほぐれて油断していると湯の中でうとうとしそうになる。
(明日は汽車に乗るのよね。……大丈夫よ、二回目なんだもの。怖くなんてないわ)
サイラスに大丈夫だと強がって見せたが、不安がないと言えばうそになる。だって馬車の何倍も速いのだ。大きな音がするし。もし脱輪したらと考えると、怖いではないか。
「きっと大丈夫よ」
自分に言い聞かせようとすればするほど、不安が募っていく気がする。
オリヴィアは肩まで湯の中に沈めると、湯気で曇った浴室の天井を見上げてもう一度息を吐いた。
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