7
案の定というかなんというか。
お茶会の翌日、オリヴィアは王妃に呼び出されていた。
王妃の私室に入ると、ソファの前のテーブルの上にはたくさんのお菓子が用意されていた。どこかで見た光景だと心の中で苦笑していると、にこにこと微笑んでいる王妃に席を勧められる。お菓子を勧められたけれど、明らかにこれは賄賂だ。手を付けるとあとあと面倒くさそうなので、お礼だけ言って紅茶に手を伸ばす。
オリヴィアがお菓子に手を付けようとしないのを見て、王妃は面白くなさそうに口を尖らせた。
「陛下に自分の味方をするように言われたのでしょう? 知っているのよ」
直球で非難されて、オリヴィアは苦笑するしかできなかった。
王妃はそんなオリヴィアに向かってずいと身を乗り出した。
「ねえ、オリヴィア、よく考えてちょうだい。アランとフロレンシア姫が婚約したら、アランがこのまま王太子よ。あなたにとって、それは都合がいいんじゃないかしら? アランが王になるならサイラスは王佐につけるつもりよ。そうすればあなたは、国政なんてアランとサイラスに押し付けて、図書館で本を読み放題。こんなおいしい話はないと思わなくて?」
なるほど、確かにそれはおいしい。オリヴィアはちょっとぐらっとした。
オリヴィアは子供のころからアランと婚約させられていたので、王妃になるものだと思って生きてきたけれど、別に王妃になりたかったわけではない。正直、王妃よりも図書館の方が魅力的だ。
オリヴィアの心が揺れたのがわかったのだろう、王妃は続ける。
「それにね、オリヴィア。女性のあなたならわかってくれるでしょう? わたくしはもう四十なの。この年でもう一人産んで育てるのは体力的に厳しいのよ。その点、男の陛下はわかっていないのよ」
その気持ちもちょっとわかる。オリヴィアだって子育てがひと段落した後にもう一人産めと言われたらちょっと待てと思うだろう。たぶん。
(いやちょっと待って。そもそもあきらめて賭け事態をやめればいいんじゃ……?)
王妃の悲壮感漂う表情に騙されそうになったオリヴィアだが、そのことに気がついて同情するのをやめた。賭けをまだ続けているのは本人たちの事情である。王妃が止めるともやめたいとも言わないのだから、そこに同情の余地はない。国王と王妃が勝手にはじめた賭けである。むしろ周囲を巻き込んだ大迷惑な賭けだ。やめると言っても誰も止めない。
(つまるところ、妃殿下は何が何でも国王陛下に勝ちたいわけね)
巻き込まれているアランも可哀そうなものである。アランを王にするなら優秀な補佐が必要だと言っていた王妃が内気で外交に向かないフロレンシア姫を選んだのは、ただ背後にあるレバノールの存在と、アランを王太子にとどめるに有効だと判断しただけだ。サイラスを王佐にと言い出した時点で、アランの補佐をサイラスにさせる気満々である。となると、サイラスと結婚する予定のオリヴィアも巻き込まれる。何が好きなだけ本が読めるだ。絶対無理である。
(危ない危ない、王妃様の口車に乗せられるところだったわ)
オリヴィアは紅茶を飲み干して、王妃に微笑み返すと、一番無難な答えを返した。
「アラン殿下とフロレンシア姫がお互いに婚約の意志をお持ちであれば、もちろんご協力いたします」
すん、と王妃の表情から笑顔が消える。つまらなそうに口を尖らせた王妃に、オリヴィアはただただ苦笑した。
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