2
城の二階。
オリヴィアが与えられている部屋の窓には、二つのオペラグラスのレンズが、太陽の光を反射してきらりと光っている。
一つはオリヴィア。もう一つはサイラス。二人はそろって顔を並べ、じっと庭の四阿を見やっていた。
お茶を楽しむために作られている四阿は、五錐の形をした屋根をしている。壁はなく、蔦模様が彫られた白い柱が屋根の角にあわせて五本。四阿の周りには、いろいろな動物の形に整えられた灌木がぽつぽつと並ぶ。
その四阿の中には、一組の男女の姿があった。
一人がサイラスの兄で第一王子のアラン。そしてもう一人が、昨日この国へやって来たばかりのレバノールの第三王女フロレンシアである。
フロレンシアは薄ピンクを落としたような金色の髪をしている、十六歳の小柄な姫だ。小さな顔に、大きな青紫色の目。だが、どこかおどおどした様子は、野ウサギが狼の前で震えているようにも見える。
「兄上が怯えさせてるんじゃないかな?」
「まさか」
サイラスの言葉に、オリヴィアは首を横に振った。基本的にアランは女性に優しいのだ。ほぼ初対面の他国の姫を怯えさせるようなことはしないだろう。
「むしろ、アラン殿下の方が困っているような顔をしてますよ」
「どれどれ」
サイラスのオペラグラスがちょっと右に動く。
オペラグラスで拡大されたアランの顔には取り繕ったような笑みが張り付けられているが、眉尻はわずかに下に下がっている。なるほど、確かに困っているようだ。
「いったい何を話してるんだろう」
「さすがに読唇術に心得はありませんからね」
そんな二人を、サイラスの護衛官が離れたところで苦笑しながら見つめていた。
レバノールのフロレンシア姫は昨日この国へ到着した。一か月の滞在予定である。目的はなんと、アランとのお見合いだ。
「今日の顔合わせは何点だろう?」
「あまり口が動いていなさそうですから、あまりよろしくないのでしょうか?」
「兄上は口下手じゃなかった気がするけど」
「年が離れていらっしゃいますから、話題があわないんですかね」
「なるほど、確かに六歳差だからね。年を取っての六歳差ならまだしも、十六歳の姫には六歳年上のおじさんの相手はつらいよね」
「おじさんって……」
オリヴィアはオペラグラスをかざしたまま苦笑する。二十二歳のアランに「おじさん」はないだろう。聞いていたら怒りそうだ。
「お茶もお菓子も進んでないね」
「今日は失敗ですかね」
「よし、『うまくいきそう』だと父上に報告しておこう」
サイラスがそう言ってオペラグラスを片付けた。
オリヴィアもそれに倣い、引き出しの中にオペラグラスを片付ける。二人がソファに移動したのを見て、オリヴィアの侍女のテイラーがお茶の準備を始めた。
あたり前のようにサイラスと並んで座って、いれたての紅茶を味わう。
二人してのんびりと午後のティータイムを楽しんでいると、扉の向こうが何やら騒がしくなった。
ばたばたと足音がする。
何事だろうと首をひねったオリヴィアの目の前で、バタンと大きな音を立てて部屋の扉が開いた。
「お前たち! のぞき見とはどういう了見だ!」
息せき切って部屋に飛び込んできたのは、先ほど庭で姫の相手をしていたアランだった。
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