暑い。

 まったくもって、暑い。


 ブリオール国の夏は、からりとしているのが常であるが、南のこの地域の、しかも地下遺跡の中となると話は変わる。

 古代王朝の遺跡のほとんどが地中に埋まっている。ここに遺跡があることはずっと前からわかっていたことで、すでに数年前から発掘作業が進められている。


 とはいえ、地中に埋まった遺跡の発掘だ。建物の大半は石で作られているとはいえ、数百年の時を経て、いろいろともろくなっている。ましてや地中に埋まっているのだから、慎重に掘り進めながらの遺跡発掘であり、当然危険を伴う作業だ。やりたがる人間も少なく、さらに国としても何十年単位で見なければならない発掘作業に莫大な人件費はかけられない。

 そのため、これらの発掘作業を担う大半の労働者は、何かしらの罪を犯して服役についている囚人たちが使われた。


(なんっでわたしがこんなことしなくちゃいけないのよ!)


 元伯爵令嬢ティアナも、その一人である。

 一時は王太子の婚約者にまで上り詰めたティアナの人生はわずか数か月のうちに転落した。伯爵令嬢という身分も奪われ、こうして強制労働につかされている。


「それもこれも全部オリヴィア様のせいよ!」


 密輸と王族への殺害未遂を企てた父はここにはいない。もっと別の場所でこれより過酷な労働につかされている。母も別の場所に回されて、ティアナは一人でここへ送られた。

 最新の華やかなドレスに身を包み、あちこちの夜会で蝶のように可憐に舞っていたころの見る影もない。薄汚れたズボンにシャツ。膝まである長い作業用のブーツ。土の中での作業なので頬も髪も土ぼこりで汚れて、きれいにきれいに整えていた爪は短く切られて、白魚のようだった手は荒れ放題。


 こんなのは自分じゃない、とティアナは思う。

 ティアナは人々にかしずかれ、優雅に、それこそ王妃のように生きるのが似合うのである。どうしてこんな労働ーー、恨み節は尽きない。


(こんなところ、絶対に逃げ出してやるんだから!)


 ティアナは近くの土の壁を、ブーツのつま先で蹴飛ばした。

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