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 デボラの町から城に戻って、国王に子細について説明をしようと思ったところで逆に謁見の間に半ば連行するような形で連れていかれて、オリヴィアは瞠目した。


 サイラスとともに謁見の間に入ると、そこには国王と王妃、それからレモーネ伯爵をはじめとする大臣たち、アラン王太子にティアナ、そして、父であるアトワール公爵がいた。


 まるで婚約を破棄されたときのようだと思う。あの時と違うことと言えば、隣にサイラスがいてくれることだろうか。


 サイラスはオリヴィアの手を握って、玉座に座る父王を仰いだ。


「これはどういうことでしょうか、父上」


 すると国王はわざとらしく肩をすくめてみせた。


「ふむ。それについては私もまだ詳しくは聞かされていなくてな、レモーネ伯爵令嬢が言うには、重大な外交問題だと言うことらしいのだが、ねえ」


 王はちらりとティアナに視線を向けた。


 ティアナはまるで勝ち誇ったような笑みを浮かべて胸をそらして立っている。その隣で、アランはどこか困惑気味な様子だった。どうやら彼も何も聞かされていないようだ。


 サイラスは今度はティアナを見やった。


「レモーネ伯爵令嬢。僕たちは旅から帰ったばかりで疲れているんだ。それを、まるで返ってくるのを待ち構えていたかのように呼びつけたのだから、それ相応の理由があるのだろう?」


 サイラスの声は固い。だが、ティアナは笑顔のまま「もちろんですわ」と答えて、もったいぶるように続けた。


「先日、エドワール王太子殿下がいらした時におっしゃられていたことについて、わたくし、ずっと疑問に思っておりましたの。覚えていらっしゃいます? ほら、あの、国境付近の町の税収の話ですわ」


 オリヴィアは思わずサイラスと顔を見合わせた。


 オリヴィアとサイラスもそれを調べるためにデボラへ向かっていたのだ。だが、その件について、ティアナが「笑顔」で話す「わかったこと」とは何だろう。少なくとも、彼女が笑顔を浮かべていられる理由はどこにもないはずだ。


 オリヴィアはちらりと国王に視線を向けた。国王はあの何を考えているのかわからない薄い笑みを浮かべて黙っている。その隣では、王妃も同じく薄い微笑で沈黙を守っていた。この二人はよく似た夫婦だと思う。


「何がわかったのかな?」


 とりあえず聞いてみることにしたらしいサイラスが続きを促せば、ティアナは勢いずいた。


「ええ! あのとき、わたくしは不思議に思っていたのです。サイラス殿下もおぼえていらっしゃるでしょう? あのとき、オリヴィア様は突然フィラルーシュ国の言葉を使われました。どうしてでしょう。それは、オリヴィア様こそが裏でフィラルーシュ国の国境付近の町の税収を横流しさせていた犯人だからですわ! 都合が悪くなったから、内緒話のようにエドワール王太子に言い訳なさったのです!」


 鼻息荒く言い切ったティアナに、オリヴィアは茫然とした。アランもティアナの無理がありすぎる推理に何とも言えない表情を浮かべている。


 国王と王妃は相変わらず笑っていて、大臣たちの顔は困惑に彩られた。――ただ、一人を除いてではあるが。


「言わせていただくが、僕もフィラルーシュ国の言葉はある程度理解できるんだ。あのときオリヴィアとエドワール王太子が交わしていた会話に不審な点はどこにもなかったよ」


「まあ! サイラス様! オリヴィア様をお庇いになるのね!」


 ティアナがわざとらしい大声を上げる。


 オリヴィアとサイラスが再び顔を見合わせていると、国王がどこか楽しそうに口を開く。


「だそうだが、オリヴィア、何か言いいたいことはあるかな?」


 オリヴィアは国王を見上げて、人の悪い笑みを浮かべる王の顔に、思わず嘆息したくなった。


 本来であれば王も交えてもっと詰めたい「話」だったのに――


(本当は、こんな大勢の前で糾弾するようなことはしたくないんだけど……)


 こうなっては仕方がないだろう。


 オリヴィアはあきらめて口を開いた。

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