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デボラの町は、大きく栄えた町だった。
オリヴィアが記憶している限りでも充分そうだったが、久しぶりに訪れた町の様子を見ると、記憶の中の何倍も豊かになっていた。
石畳が引かれ、整備された道。活気ある商店。家々はどれも新しく、町を歩く人々の装いを見ても、皆懐が温かいことが見て取れる。
怪しいところは見る限りどこにもない。
城で確認した帳簿は「正常」。町も「正常」。普通に考えれば何らおかしくないことだ。
サイラスとオリヴィアは、ひとまず町長のところへあいさつに向かった。
このあたり一帯を管理している伯爵は現在は王都にいて領地にはいない。もっと言えば、伯爵にはオリヴィアたちがここに来ることは告げていなかった。告げたところでオリヴィアを「愚者」だと思っている伯爵が何かを勘繰るようなことはなかっただろうが、念のためだ。
サイラス達が町長宅を訪れると、町長はあたふたしながら出迎えた。事前にこちらを訪れると伝えていなかったからだ。突然王子がやってきたら、それは驚くだろう。
町長とは軽い挨拶を交わしたが、彼にも特に怪しいところはなかった。ただひたすら、可哀そうなほどに恐縮していた。
町長宅に出向いたのは、もし彼に怪しい動きがあるのであれば、むしろこちらから挨拶に出向くことで、逆に勘繰られないだろうと思ったが、杞憂だったかもしれない。
オリヴィアとサイラスは町の中を一周して、王家の別荘へ移動した。
別荘には事前にデボラの町に調査に向かわせていたサイラスの部下のリッツバーグが待っていた。
サイラスとオリヴィアがサロンに向かうとリッツバーグが立ち上がる。彼はサイラスの護衛官であるコリンの親戚にあたる人物で、信頼できる生真面目な男だそうだ。
リッツバーグに調査してもらっていたのは、デボラの町の人口推移と収支、そして十年の中で変化した産業などについてだ。
用意された資料は机の上に山積みにされていた。
リッツバーグにはこのあと、国境を越えてウィンバルの町に向かってもらう予定だったが、せめて一日くらいはゆっくりしてもらおうと、サイラスがメイドを呼んで、彼を部屋に案内させる。
オリヴィアはその間、ひたすら資料を読み進めて、途中で手を止めた。
「……これは、思った以上の問題が出てくるかもしれません」
オリヴィアがそっとサイラスに開いた資料を差し出すと、彼はぐっと眉を寄せた。
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