27

 オリヴィアはサイラスの部屋を訪れた。


 彼の部屋に入ると、サイラスと、それから彼の護衛官であるコリンの姿もあった。ソファとソファの間におかれているローテーブルの上には、紐で閉じられた冊子が山になっている。これはオリヴィアが頼んでサイラスに用意してもらったものだ。


「ごめんなさい、お手数をおかけして」


「いや。僕も王子としてこれは見過ごせないからね」


 サイラスが神妙な顔で答える。サイラスに用意してもらったのは、フィラルーシュ国のウィンバルの町と国境向かいにあるブリオール国の町を含む一帯の領地を管理している貴族の帳簿だ。


 領地を管理している貴族は、毎月、国に自分の領地の収支を報告する義務がある。なぜなら、彼らが税として回収した領地の収入のうちの一定割合が国に治められるからだ。国は貴族から提出のあった帳簿をもとに、その貴族から回収する税を計算するのである。


 オリヴィアはソファに腰を下ろすと、さっそく一番上の冊子を手にした。


「君の言う通り、過去十年の帳簿を持ってきたよ」


 本来これらの帳簿は、王族と税務大臣及びその部署で働いている人間しか目にすることはできない。オリヴィアには当然、目を通す権利はないが、サイラスが王に特別許可を得たと聞いている。


 オリヴィアが帳簿を調べはじめると、サイラスも別の帳簿を開いた。


 外部の人間に見せることができない帳簿であるため、サイラスの護衛官であるコリンがメイドに頼んで用意してもらった紅茶を、ティーカップに注いでくれる。


 そしてコリンは、誤って帳簿の中身を目にしないようにと、少し離れたところの椅子に腰を下ろした。


 ぱらぱらと紙をめくる音が響く。


 十年前から最近まで、年を遡るように読み進めていたオリヴィアたちは、すべて読み終えると、ふうと息を吐く。


「殿下、『おかしな部分』はありましたか?」


「いや、ない」


「そうですか。わたしが調べたところもです。どれも、多少の差はあるものの、同じ程度の税収が記録されていました」


 オリヴィアはすっかり冷めてしまった紅茶で喉を潤すと、にっこり微笑んでいった。


「やっぱり『変』ですよね」


 コリンは離れたところで二人の会話を聞きながら、おかしな部分がないから「変」とは一体何なのかと、首をひねった。

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