13
図書館の禁書スペースは、オリヴィアにとってまるで宝箱の中のようだった。
一般書店では手に入らない貴重な本が山のように並んでいる。経年劣化で触れることができない本がショーケースに入れられて部屋の中央に一列に並べられており、壁一面の本棚に並ぶ本からは古書の独特の香りがした。
(ふわああああああっ)
オリヴィアは思わず踊りだしたい気分だった。
普段は厳重に鍵がかけられて、その鍵は国王が管理しているという、図書館の禁書スペース。『栄華記』の完全版もここに収められていたはずだ。きっとサイラスはここから持ち出して貸し出してくれたのだろう。
自由に出入りされてはいけないので、サイラスが内鍵をかけながら微笑んだ。
「夕方まで許可を取っているから、好きなだけ読んで構わないよ。読書スペースは奥の扉の向こうだ。あまり広くはないけど、窓から庭の薔薇園が見えてなかなか居心地がいいところだよ」
サイラスがそう言ったが、オリヴィアの耳にはほとんど入っていない様子だった。彼女はスキップしそうな足取りで本棚に駆け寄ると、限られた時間で何を読もうかと、真剣に本を物色しはじめたからだ。
サイラスは彼女の邪魔をしないように反対側の本棚へ向かうと、興味を持った本を二冊ほど本棚から引き抜く。
そうしている間に、オリヴィアが次々に本を取り出してくのを見て苦笑した。すでに七冊が手元にあり、それ以上持てなくなって困っているようだ。
「かして。僕が持つよ。重いでしょ?」
オリヴィアの手元から本を奪うと、満面の笑みで「ありがとうございます」と返事をした彼女が、更に三冊ほど本を抜いた。
サイラスは自分の本とオリヴィアの本を持って奥の部屋へと向かう。
奥の小さな部屋には、ダークブラウンの長方形の机が窓際におかれて、それを囲むように椅子が四脚ほど置かれていた。
格子窓からは薔薇園。色とりどりの薔薇がちょうど見ごろを迎えている。
その薔薇たちは、思わず感嘆のため息をつきたくなるほどに見事だったが、すでに目の前の本しか目に入らなくなっていたオリヴィアは、椅子に座るなりすぐさま本を開いた。
サイラスも彼女の向かい側の椅子に腰を下ろして、本を開くふりをしながらオリヴィアの顔を見やる。
オリヴィアはまるで、珍しいおもちゃを与えられた幼い子供のようだ。
古い本だからか、普段よりも幾分か丁寧な手つきでオリヴィアがページをくっていく。
ぱらりぱらりと本のページを繰る音だけが室内に響いて、サイラスはまるで時間がゆっくりになったかのようなその空間に酔いしれそうになった。
好きな女の子と狭い部屋の中で二人きりである。いつもより鼓動が早くなっているような気がした。一つだけ残念なことがあるとすれば、オリヴィアがまったくと言っていいほどサイラスを意識していないことである。
ちょっぴり面白くなくて、サイラスは口を開いた。
「急がなくても、また連れてきてあげるよ」
すると、オリヴィアははじかれたように顔を上げて、まるで大輪の薔薇が咲き誇るかのように笑った。
「本当ですか!?」
サイラスと本とが乗せられた天秤が本に傾いているのは不満だが、この笑顔が見られたのならば、今はそれでもいいような気がしてくる。
「本当だよ」
でもいつか、本よりも自分の方に天秤を傾けて見せると心に誓いながら、サイラスは大きく頷いた。
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