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オリヴィアから隣国のエドワール王太子の歓迎のダンスパーティーについて色よい返事をもらえたサイラスは、上機嫌で帰途についた。
「楽しそうですね、殿下」
「当然だよ、コリン」
コリンはサイラスの護衛官である。サイラスよりも八つ年上の彼は、サイラスが十歳の時からそばにいる。ともすれば兄のような気を許せる間柄だ。
コリンは短く刈った黒髪を撫でながら、馬車の窓の外を気にしつつ、
「それにしても、まさかこうもうまくいくとは思いませんでしたね」
と言った。
サイラスは「そうだね」と苦笑して、コリンの視線を追うように馬車の窓外へ顔を向ける。
王家の紋章の入った馬車は当然目立つため、大通りではたくさんの人がこちらを伺うように立ち止まっていた。
王政を敷くブリオール国では、どうやったって王族に注目が集まる。王家への支持率が下がれば、不満を持った人々のクーデターの危険もあるため、サイラス達王族は、常に人の目を気にして生活しなくてはならない。
幸いなことにブリオール国ではもう二百年以上ものあいだ平和な時代が続いているが、だからと言って気は抜けないのだ。一瞬の気のゆるみがすべてを滅ぼすことになることもある。
それゆえ、サイラスから言わせれば、今回の王太子アランの婚約破棄の騒動は、王家への批判を集めかねない愚策である。けれども――、本来喜んではならないその愚策を、サイラスは喜んだ。オリヴィアを手に入れる絶好の機会だからだ。
だが、コリンの言う通り、サイラスもこう上手くいくとは思わなかった。
サイラスは兄がオリヴィアに婚約破棄を宣言する前日に、国王とかわした会話を思い出した。
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