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 第二王子サイラスは二十歳――アランの二つ年下の弟だ。


 栗色の髪に少し浅黒い肌のアランと対照的で、鮮やかな金髪の色白の青年である。


 本が好きなサイラスはよく城の図書館で本を読んでおり、同じく図書館に入り浸っていたオリヴィアは彼とよく顔を合わせていたが、世間話に毛の生えた程度の会話しかした記憶がない。


 そのサイラスが、どうして急にオリヴィアに求婚したのだろうか。


「陛下のご命令ですか?」


 話をしようと誘うと、サイラスはオリヴィアを自分の部屋へと招待してくれた。目の前には薫り高い紅茶が用意されて、おいしそうなお菓子が次々に運ばれてくる。


 サイラスは紅茶に砂糖を落としてかき混ぜながら、きょとんとした顔をした。精悍な兄とは違い、どこか中性的な優しそうな目鼻立ち。外見にそぐわず、いつも微笑を浮かべている穏やかな性格の王子である。


「なにが?」


「ですから、先ほどの求婚……」


 オリヴィアが言うと、サイラスは少しばかり傷ついた顔をしてスプーンをおいた。


「まあ、そう思われても仕方がないかな……、あの状況じゃ」


「違うんですか?」


「違うよ」


 サイラスは立ち上がると、オリヴィアの隣に腰を下ろして、彼女のほっそりとした手を握り締める。


「ごめん。順番が逆になってしまったけど、僕は君が好きだよ」


「え……」


「どうしてそんなに驚くの?」


 オリヴィアが目を丸くすると、サイラスが苦笑する。


「いえ、だって、そんな素振り……」


「そりゃあ、兄上の婚約者だったから」


「でも……」


 まだ信じられないオリヴィアに、サイラスはちょっと考えて、それから顔を上げた。


「うーん、じゃあ話を変えよう。君はこの部屋を見て何を感じる?」


 オリヴィアはサイラスの視線をたどるように顔を上げて、すぐに答えた。


「本がすごく多いですね」


「でしょう?」


「……えっと」


 本が多いからなんだろ言うのだろう。オリヴィアは首をひねって、すぐにはっとした。


 壁一面の本棚をびっしりと埋めるたくさんの本。王子という身分であれば、どれほど貴重な本であっても、望めば手に入れることができるだろう。実際、本棚を埋めている本の中には、オリヴィアもまだ読んだことのない、非常に珍しいものも並んでいる。つまりはーー


「どうして、図書館に……」


 オリヴィアが本を読みに図書館に行けば、サイラスは決まってそこにいた。わざわざ図書館に足を運ばずとも、読みたい本ならいくらでも取り寄せることができる彼が。それはどうしてか。その「理由」にあたりをつけたオリヴィアの顔が、徐々に赤く染まってく。


「ご想像通りだよ。君に会いに行っていた」


 サイラスはオリヴィアの反応に気をよくしたようだ。オリヴィアの手を握り締めたまま続ける。


「ずっと好きだったんだ。でも兄上のものだったからあきらめようとも思ったんだよ? でも、兄上が君との婚約を解消しようとしていると聞いたから……」


 慌てて国王に相談しに行くと、意外にもあっさり、オリヴィアに求婚することを認めてくれたという。


 オリヴィアはくらくらとめまいを覚えた。


 サイラスの気持ちは嬉しいが、彼のことを今までただのアランの弟としか見ていなかったオリヴィアである。それに、王太子に捨てられたからすぐに第二王子――というのはいかがなものだろう。下手をすればオリヴィアの評判だけでなく、王家への批判にもーー


「もちろん、すぐに結論を出してもらわなくてもいい。僕は全力で君を口説きに行くから、君が僕の妃になってもいいと思ったときに話を受けてくれればいい」


「……その気にならなかったら?」


「その気にさせて見せるよ」


 サイラスはオリヴィアの手の甲に触れるだけのキスを落とすと、いたずらっ子のように片目をつむった。

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